変わらないもの

継ぎ足し継ぎ足し30年以上、

秘伝のだしが染みた沖縄おでん。

時は移り、人は変われど、

変わらないものがここにはある。

また帰ってきたくなる赤提灯よ。

夏の沖縄旅2016リポート、旅の後半は本島編。

2日目は愛しの沖縄の焼き物「やちむん」を求めて

多くの窯元が集まる読谷村まで聖地巡礼ドライブ。

さらに山越えの県道を通り本島中部の東海岸へ。抜け、

金武町名物のタコス&タコライスで遅いランチの後は

沖縄の世界遺産の中で最古のグスク、勝連城跡を訪ね、

15世紀の英雄、阿麻和利の見果てぬ夢に思いを馳せ、

夕暮れの那覇へ戻ってきました。

那覇2日目の夜に訪れたのが

街の中心部、県庁前の坂道を入った路地にある

創業40年余の老舗居酒屋「よね屋」。

元々は沖縄そばを出す食堂から始まったお店で、

自慢のそばだしで仕込むおでんが長く常連客に愛されきました。

年季の入った赤瓦、植え木に埋もれるような店構え、

赤提灯がぽっと灯る昔ながらの居酒屋さん、

一見の旅人は最初ちょっと緊張しながら訪れたのですが、

渋い初老の大将、意外に人懐っこいことが判明(笑)。

おでんの箸が進むごとにカウンター越しの会話も弾んでいくのでした。

ぷるぷる、とろとろのてびちは

5時間鍋の前につきっきりで下茹でしていること、

毎日火を入れ、だしを継ぎ足し、秘伝のだしを守っていること。

「そばだし使った食堂のカレーも旨いんだ、ウチの黄色いカレー」。

すっかり人慣れしてくれた(笑)大将が色々教えてくれる。

奥さん、息子さんご夫婦と家族で切り盛りしている「よね屋」さん、

今も昼間は食堂として、県庁界隈のサラリーマンで賑わい、

沖縄そばやそばだしで作る昭和の黄色いカレーは

那覇の名物サラメシ、らしい。

最初はそっけない感じだった大将ですが、

いつのまにか泡盛のグラスを片手に腰をおろし、

カウンターとおでん鍋越しに旅人と居酒屋トークが満開。

今晩はどうやら、お暇なようですが、

「仕事帰りの県庁の人たちもよく来るんでしょうね~」と聞くと、

「今の人たちはねぇ~、こういう居酒屋来なくなったねぇ~、

昔はさぁ、夕方になればカウンターにはびっしり、

観光振興がどうの、再開発がどうのって喧々諤々議論してたけどね。

今はねぇ~」。確かに。今夜もお客はまだ来ない。

かつては大将もカウンター越しに

その熱い論議に耳を傾けていたといいます。

「観光も大事だと思うけどね、何でもかんでも受け入れてしまうのは

俺なんかはどうかと思ったりしたけどね。久高島とかね」。

「久高島、行きましたよ。神の島ですよね」。

「そう、神の島だからさ、できればそのままそっとしておいてほしかったよね」。

対岸に久高島を望む本島南部出身の大将にとって、

観光振興策が活性化につながることはわかるけど、

誰もが気軽に足を踏み入れる場所になることには

心理的な抵抗があったそうです。

復帰後の沖縄がどうやって生きていくか。

県庁前の路地にある昔ながらの赤提灯の居酒屋で

様々な熱い意見が飛び交い、議論が交わされてきたのでしょう。

経済発展と島のアイデンティティの狭間に揺れる沖縄の人々の思いを

何十年変わらない秘伝のおでん鍋は黙って見つめてきたのだ。

「俺もさ、観光の人たちが何を求めてるか、よくわかんないんだよね」

ほかにお客のいない店を眺めながら大将がぽつんと呟いた。

「常連ならさ、今日コレ入ったからって、勝手に出せるけどね」。

長く常連さんに愛されてきた老舗居酒屋の大将は、

ホントに優しい人だった。そうかそうか、わかっったわかった。

私みたいな一見の旅人をどうもてなすか戸惑っていたのですね。

色々「ニーズ」とやらがあるだろうから、

常連みたいにあしらうわけにもいかないし、

だから、少々とっつきにくい初対面になったらしい。

やっぱり、沖縄の男性は優しくて、シャイで、照れ屋さんだ。

「いつも通り、こんな風が、一番嬉しいですよ」。

ゴーヤチャンプルーの追加注文を受け、

新鮮なゴーヤーをいちから丁寧に割り、わたを取り出す大将に

沖縄の素顔に惚れてる旅人はそう言葉を返したのでした。

気どりもてらいも押しつけがましさとも無縁。

時は移り、人は変われど、県庁前の坂道の路地を入れば、

変わらぬ赤提灯と変わらぬおでん、

そして、年に一度正月休みには全国鈍行列車一人旅を続け、

映画「夜叉」と高倉健さんが大好きな、実は人懐っこい大将が

変わらないシャイな笑顔で出迎えてくれる。

こんな昔ながらの店にふと出会えるから、

沖縄旅はやめられない。

今度、昼間に来てみるね。

黄色い昭和のカレー、

楽しみにしてます。

(写真は)

実は人懐っこかった「よね屋」の大将と。

コクがありながらさっぱりおでんと

チャーミングなお人柄が最高。

県庁の若手にもぜひお勧めしたい一軒。

沖縄の色々な素顔に出会える。