縁側ゆんたく
広い縁側に腰掛けて
南国枯山水のお庭を愛でるひととき。
袖触れ合うも他生の縁、旅人同士の話に花が咲く。
降り注ぐ蝉時雨がBGM、
縁側ゆんたく、いとおかし。
夏の沖縄旅2016リポート、旅の前半は石垣島にステイ。
西表島・由布島・小浜島・竹富島の八重山4島クルーズに
メインアイランド石垣島一周ドライブなど
八重山諸島の自然、文化、食、を存分に堪能、
そして魅力あふれる島人との出会いも重なり、
あっというまに最終日の朝を迎えました。
夕方の飛行機で本島へ移動するまで島時間を有効にと
まず朝一番にやってきたのが「宮良殿内」。
八重山方言では「メーラ ドゥヌズ」。
1816年、琉球王府時代に建てられた頭職、
当時の行政区の首長、上級士族の私邸であります。
石垣島では地上戦がなかったために戦火を免れ、
本島では壊滅してしまった首里士族層の屋敷の趣きを
今に残す貴重な建築物で国の重要文化財に指定されています。
赤瓦の堂々たる屋敷は島が誇る二百年住宅。
実は立派すぎて規則違反だと当時の王府から
再三のお咎めがあったにも関わらず、泰然自若、
一時は萱吹きに渋々改修したものの、明治時代の王府解体後には
さっさと赤瓦に戻したという、したたかな歴史を持つ「宮良殿内」。
首里の王様からすれば、困った八重山首長だったでしょうが、
飄々と中央政府をいなす様子が目に浮かぶようで、
趣きあるお庭を眺めながら、なんだか頬が緩んでくる。
屋敷の一番座を背にして開放的な広縁に腰かけ、
当時の頭職気分でこれまた立派な枯山水の庭園を愛でる。
琉球石灰岩の築山が配置されたお庭は
首里の名庭師「城間親雲上(ぐすくまーぺーちん)」によるもの。
沖縄ならではフクギやソテツのほか、
石垣島ではなかなか見られない南天なども植えられていて、
南国の青空の下、静謐の時間を堪能できます。
ふとみれば、静かなお庭に先客の姿が。
ご年配のご夫婦二人、カメラ片手のご主人がアングルを思案中。
「あの、よろしければお二人でお撮りしましょうか?」
お節介ながら声をかけると、「まあ、嬉しい、撮っていただきましょ!」。
上品な奥さまがまるで花がほころぶような笑顔で答える。
「はい、では縁側バックに、ハイ、チーズ」、永遠の合言葉はいまだ現役(笑)。
ちょっと照れ気味のご主人と愛らしいの奥さまの2ショットが微笑ましい。
「もう一枚、お庭バックでも撮りましょうね、ハイ チーズ!」。
パシャ。
「どちらからお越しですか?」
袖触れ合うも、写真撮り合うも、他生の縁。
旅先のちょっとした触れあいはこんな会話から始まります。
聞けば横浜からいらしたそうですが、ご主人は八重山は10数年ぶりとか。
「いやぁ、竹富島の人の多いのにはビックリしました」。
ですよね~。初訪問の私もちょっと面喰いましたよ。
ご夫婦も今日が最終日、お昼の飛行機でお帰りの予定とか。
「まだ少し時間があるから、どうしようかと思って。
あの、失礼ですけど、これからどちらに行かれます?」。
奥さまが遠慮がちに訊ねてきました。
「え~っと、八重山藍を自家栽培している農園へ行ってみようかと」。
そう、この後は、例の「shimaai」の藍畑「島藍農園」へ行く予定。
オーナーの大濱さんに事前アポ、取ってあるのでした。
「え~っ!藍~~~!、石垣島で藍染め、あるんですか~!」
奥さまのリアクションがワントーン、跳ね上がった。
「絶対、行きたい、見たいわぁ~!」。
ご主人に寄りそい、半歩下がり気味だった奥さまが一気に身を乗り出す。
「私、染め、大好きなんですぅ」。
なんでも、シンガポールに長く住まわれていたそうで、
現地でバティック染め、アジアの藍染めに親しんできたとか。
「でも、お昼の飛行機だと、行く時間ないわよね~」
顔を曇らせ、その視線は傍らのご主人に向かう。
「ほらぁ、だから、今度は違うところを訪れましょうって言ったのよぉ~。
二度目の竹富島に行く時間があったら、私、藍の畑行きたかったわぁ」。
どうやら手仕事系に興味がある奥さまのご意向をよそに
最初の竹富島に感動したご主人が島行きを強行したそうで(笑)。
うんうん、あるある、旅のプランを巡る夫婦の見解の相違。
「いやしかし、お前、10年前はホント静かで良かったんだ・・・ぶつぶつ」。
時ならぬ奥さまの可愛い逆襲にご主人はもごもご、旗色悪し(笑)。
その姿にふと、実家の両親の「長崎カステラ事件」を思い出した。
父が生きていた頃、私が高校生くらいのときだったろうか、
勤続何十年記念とかで珍しく母と二人、夫婦で九州旅行に出かけたのですが、
その旅の前半、立ち寄った長崎で食べたカステラに感激。
「ここで何本か買って、家に送りましょう」という母の提案を
大正男の典型たる父は「いい、いい、今じゃなくていい、
こんなカステラ、九州のどこにでも売ってる」と即刻却下。
ああ、目に浮かぶ、話を聞かない夫、黙らざるを得ない妻。
「でもね、その後、九州のどこにも
長崎カステラなんて売ってなかったのよぉ~」。
今ほどデパ地下や物産店、道の駅なんで発達していない時代、
本場の長崎カステラは長崎でしか買えなかったのだ。
「だから、あの時、長崎で買って送ろうって言ったのに、
お父さんったら、めんどくさいんだか何だか、ホントにもう」。
娘はその後何十年と同じ繰り言を聞かされることになる。
長崎カステラを見るたび、母の台詞が条件反射で蘇る(笑)。
石垣島の南国情緒あふれる古民家。
「宮良殿内」で出会ったご夫婦との縁側ゆんたく。
ふと懐かしい思い出が蘇り、思わずクスリ。
父の同世代らしきご主人、この先、ことあるごとに
「あのとき、石垣島の藍畑、行きかったのに~」と
奥さまから可愛らしく責められるのかもしれませんね~(笑)。
教訓。夫婦旅、旅プランの主導権は妻に預けるべし。
天国の父にそっと呟く石垣島の朝でした。
さあ、美しき藍の畑へ向かいましょう。
飛行機が離陸する寸前まで
島を楽しみ尽くします。
(写真は)
ゆったりと開放的な縁側。
沖縄の伝統的な建築空間は
つねに外に開かれている。
旅人同士のゆんたく(お喋り)がはずむ。
心もゆったり開かれていく。

