来る夏の世

石垣とハイビスカスの花に囲まれ、

風が通り抜ける気持ちのいい空間。

木陰でゆったりと過ごすもよし、

心地よい板の間でくつろぐもよし。

これこそが豊潤なる島時間。

「来夏世」だ。

夏の沖縄旅2016リポート、旅の前半は石垣島ステイ。

西表島・由布島・小浜島・竹富島の八重山4島クルーズに

メインアイランド石垣島一周ドライブなど

八重山諸島の豊かな自然・文化・食・人々に出会えた旅、

魅力的な石垣滞在はあっという間に最終日を迎えました。

夕方の飛行機で本島へ移動するぎりぎりまで

島時間を楽しんでいます。

朝から琉球王府時代の赤瓦のお屋敷「宮良殿内」を散策、

公設市場で島のお土産をショッピング、

一目惚れした八重山藍「shimaai」の藍畑「島藍農園」を訪ね、

石垣島発のスローで真面目な6次産業モデルに感動。

美しい八重山藍に別れを告げる時分にはすでにお昼どき。

オーナーの大濱さんが農園近くの赤瓦の隠れ家カレー屋さんを

紹介してくれたのですが、残念ながら定休日。

「う~ん、品切れかもしれませんが・・・もう一軒」と

リコメンドしてくれたお店を目指すことにしました。

素敵なお話、出会いに感謝しながら、

パンナ岳を下り、農園を後にします。

そう、実は気になっていたのですよ、「とうふの比嘉」。

さとうきび畑の中にある昔ながらの島豆腐専門店で、

明け方3時から仕込むゆし豆腐目当てに6時半の開店時には

行列ができるという伝説的なお豆腐屋さんであります。

お昼12時過ぎに座れるか、いや、そもそも豆腐があるか。

頼りにならなあいナビに悪戦苦闘しながら、畑の一軒家に何とか到着。

が、出迎えたのは「本日の豆腐売り切れ」の無情な貼り紙(涙)。

また?またまた石垣島昼飯難民と化すのか・・・。

むふふふ、色々と島の経験値を積んだ旅人、

最終日にお昼食いっぱぐれなんて目に絶対あうものか、

ちゃんと第三案を考えていたんだもんねぇ~。

「とうふの比嘉」から遠からず、石垣小学校のお向かいに

島人が愛してやまない八重山そばの名店があるのです。

もうね、お店の名前が素敵過ぎる。

「来夏世」。

「来夏世(クナチィユ)」とは

五穀豊穣「来る夏の世」を祈願する八重山の美しい言葉。

海の彼方のニライカナイから来たる夏の世が

稔り多かれと願う島人の祈りが込められています。

響きも文字もその意味も何もかもが美しい。

こんな素敵な言葉がお店の名前につけるなんて、

「来夏世(くなつゆ)」のおそばは絶対美味しいに違いない。

静かな昼時の住宅街、

緑の石垣に赤いハイビスカスも美しい民家、発見。

「来夏世」です。小さな駐車場は既に満車、でしたが、

ラッキーなことに、出る車が一台、タイミング良く駐車できました。

ニライカナイの神様のご加護でしょうか、感謝感謝。

見落としそうな木の看板と可愛いシーサーに出迎えられ店内へ。

木と白い壁を基調としたお店の中は上品で優しい雰囲気。

風が通り抜ける空間は開放的で満席でも圧迫がありません。

初めてなのに「ただいま」って言いたくなるような、

大好きな料理上手のおばさんのお家に遊びにやってきたような、

そんな居心地の良さが漂います。

大きく開かれた窓からは庭の緑を見渡せ、

木陰の縁側にも心地良さそうな席がしつらえられています。

作業着のお兄さんやかりゆし姿のおじさん、家族連れなどなど

店内のほとんどが地元の人で美味しそうにそばをすすっています。

ぴかぴかに磨き上げられた板の間が素足に気持ちいい。

「あ~、お腹すいたぁ~」。まずは壁のお品書きを見上げる。

「八重山そば(大)(中)(小)八重山そばセット じゅーしー あか米」以上。

なんと潔い、迷う必要もないシンプルな献立も好ましい。

「いらっしゃいませ~、ごめんなさいね~、じゅーしーは売り切れです~」。

店内満席なのに笑顔の女性スタッフが速やかにオーダー取りにきてくれて、

しかも同時に「じゅーしー終了」も効率よく告げる。見事な対応。

「人気のじゅーしーは昼前に売り切れ必至」との噂は本当だった。

ま、お昼は軽めに「八重山そば(小)」を大人しく注文。

ほどなく運ばれてきた「来夏世」の八重山そばは

お店の名前にたがわず美しい佇まいだった。

金色に輝く透明なスープは

じっくり煮込んだ豚骨とかつぶしがきいた深い味わい。

八重山そば独特の細い丸麺の上には

これまた八重山そば定番の甘辛い豚肉の細切りと八重山かまぼこ、

そして島の青ネギというシンプルなトッピング。

ひと口すすると思わず「美味しいよぉ、おばあちゃ~ん」と叫びたくなった。

それほどに優しく「来夏世」のおそばはするすると体に入っていく。

それもそのはず、この「来夏世」のおそばは

元石垣市長の内原さん家族のスエおばあちゃんの自慢の味なのでした。

家族みんなが大好きだったおばあちゃんのおそばを

もっとたくさんの人に食べてもらいたいと、

ファミリーの後押しを受けて、スエおばあちゃんが80代で始めたのだとか。

90歳を超えた現在では店に立つことはなくなりましたが、

ご家族がしっかりその味を受け継いで切り盛りしているのでした。

初めての旅人も「ただいま」と言いたくなるわけだよね。

最後の一滴まで滋養たっぷり。

島のおばぁが次の世代が健やかなることを願い、

真面目に丁寧に作り続けてきたおそば。

「来夏世(クナチィユ)」の願いが込められた一杯。

ごちそうさまでした。

(写真は)

絶品八重山そばは佇まいも美しい。

大きな窓からは心地よい風。

来たる夏の世の豊穣を願う一杯。

「そば、ひとつね」。

今度来る時は島人みたいに注文しみよう。

また帰って来たくなる八重山そばの「来夏世」。