金色の瞳
そして世界がもうひとつ生まれる。
南海の孤島で
それを僕に教えてくれたのは
金色の瞳だった。
ああ、最高の読後感。
やっぱり、大好き、ドリアン助川さん。
作家で詩人としても活躍するドリアン助川さんが
5年の歳月をかけて執筆した長編小説「ピンザの島」。
映画にもなった前作の「あん」は小さなどら焼き屋さん、
今回は南の海の果ての孤島を舞台に、
「生きる」ことの意味にがっぷり四つに組んたお話です。
両親を亡くし、自殺衝動にさいなまれる青年涼介は
斡旋屋に水道工事のアルバイトの一人として
南海の孤島「安布里島」に送り込まれます。
携帯電話も通じない、コンビニもない、独特の風習が残る島の生活に
若者たちは戸惑いますが、涼介にはもうひとつの目的がありました。
自殺した父とともに、かつてチーズ作りを目指した親友を探すこと。
生きる意味を見失った青年は「ハシさん」と名乗るその男性に出会い、
やがて彼らが失敗したチーズ作りに再び挑戦するのですが・・・。
あとは読んでのお楽しみということで。
この小説は活字を追うハナから映像が立ちのぼります。
フィクションであるはずの安布里島の光景、
切り立った岸壁、ガジュマルの原生林、ぽっかり口を開けた洞窟。
どうして生きていったらいいのか途方に暮れる涼介の姿も
夢の「なれの果て」のような初老の「ハシさん」の佇まいも
白い紙に並ぶ活字から頭の中に3Dで映像化されてくるのです。
淡々としながらも圧倒的な熱量を帯びた文章は
独特の心地よいリズム感があふれていて、
読み手の五感をぐいぐいと刺激してきます。
とりわけ鮮やかな映像を結ぶのが「ピンザ」。
宮古島の方言で「ヤギ」を指す言葉ですが、
小説の中の島は宮古島がモデルではなく、あくまで架空。
「ハシさん」が飼っている乳用種のツヨシとハナヨ、その子供たち、
ガジュマルの原生林で涼介が遭遇した野生化したヤギたちなど
物語に登場する個性的な「ピンザ」たちの姿が実に印象的。
人物描写と同じ熱量でピンザ描写がされているのです。
濃厚で香り高いミルクを出すハナヨの乳房を描写する場面など
その柔らかさ、手触り、温もりなど温度や質感まで伝わってくきます。
一方でお乳がとれないため食用とされるオスの子ピンザの宿命も
人が生きるためには他の命を奪わざるを得ないのだと
目をそらすことなく描ききります。
ああ、食べることは、奪うことでもあるんだなと今更気づく。
子を産み、育てるためにピンザが出すミルクを
人間がもらってチーズにして、そのチーズを美味しいと食べてるんだと。
お乳を与えるべき子を人間に奪われた母ピンザの金色の瞳。
島の風習で仲間を狩られた山のピンザの金色の瞳。
そして生きる意味を求めて彷徨う涼介を救うのもまた
島のピンザの金色の瞳、なのでした。
生きている事自体の価値を何より知っているのは、ピンザ。
ピンザ、最高の助演俳優。
「あん」に続いて、ぜひとも映画化してほしい作品です。
涼介役は、う~ん柳楽優弥や染谷将太、二宮和成もいいなぁ、
ハシさんは、え~っと60歳くらいになった堺雅人がぴったり(無理か、笑)
そして何よりキャスティングが大変なのは「ピンザ」役。
豊かな乳房を持つ真っ白なハナヨ、涼介になつく山ピンザのぶち、
おもちゃのように緑の庭で跳ねまわる子ピンザ、
芸達者なヤギさんがみつかればいいけど。
生きる。食べる。奪う。迷う。悩む。感謝する。
そして、また生きる。
ピンザに大事なことを教わった小説でした。
「ピンザの島」。
お薦めの一冊です。
(写真は)
すっきりと晴れ渡る青空。
ジャンプ台も緑に覆われた。
旅心がうずく季節。
南の島のピンザに会いたくなるなぁ。
ああ、沖縄病が・・・(笑)。

