バーバリな春
入学式の朝。
春のお日さまが青空で笑っています。
いいお天気になって良かったね。
ぴっかぴかの1年生たち、
入学、おめでとう。
ぴっかぴかのランドセルに真新しい洋服、おろしたての靴。
小学校の入学式スタイルは全国共通ですが、
北海道だけ、ちょっと事情が違います。
桜満開の道外と違って、春とはいえまだ肌寒いこの季節、
どうしても一枚上に着るコートが必要なんですね。
ふと思い出した言葉があります。
それは、バーバリ。
その昔、小学校の入学式を指折り数えて待っていた春。
ミシンに向かって母が何かを一生懸命縫っていました。
淡いグリーンがかった少しツルツルした生地には
ちょっと大人っぽい花模様がプリントされています。
「それ、なに?私の入学式のお洋服?」
ワクワクしながら訊ねた私に母はちょっと自慢げに答えました。
「これはね、バーバリ」。
「バーバリ?」
「そう、入学式はまだ寒いでしょ?
ワンピースの上に着るものがいるからね」。
そうかぁ、春先に大人たちが着ているあのコート、バーバリって言うんだ。
うふふ、私にもそのバーバリ、作ってくれてるんだ。
若い頃から洋裁が得意だった母は、
入学式用のワンピースはもちろん、上に着る春コート「バーバリ」まで
手作りしてくれていたのでした。
バーバリ。
我が家では春コートと同義語だったこの言葉が
1856年創業の英国ブランド「バーバリー」社に由来すると知ったのは
ずっとずっと大人になってからのことでした。
あの時母が手作りしてくれた薄緑の花柄コートは
本物のバーバリーコートとは全然違ったけど、
私にとっては世界で唯一つのオンリーワンブランドだ。
北海道の肌寒い春風から守ってくれた思い出の「バーバリ」。
今みたいに外国ブランドの洋服が身近にない時代、
多分、母は愛読していた雑誌「ミセス」や服飾雑誌「装苑」などで
バーバリーコートの存在を知ったのだろう。
ミシンを踏む母の傍らで幼い私もそれらの雑誌をめくった記憶がある。
美しいモード写真、上質な洋服、外国映画のような食卓風景・・・。
銀のカトラリー、花柄のティーセット、本物のオレンジで絞ったジュース、
夢のような憧れの暮らしがそこにはあった。
まだちゃぶ台でご飯を食べていた昭和のあの頃、
しかし、若かりし母は雑誌で見た「憧れ」を手作りした。
街のどこにも本物のバーバリーコートなど売っていない時代に
風を通さない可愛らしい生地を手に入れ、
入学式を迎える子供のために春コートを縫ってくれた。
半世紀経った今、胸を張って自慢したい。
あの「バーバリ」は世界一だ。
入学の春を迎えるたびに
薄緑の花柄の「バーバリ」が目に浮かぶ。
すべりの良い生地は袖を通した時、シュッと気持ちいい音がした。
何だかすごく大人になったような気がした。
どんな春風にも向かっていける勇気が出た。
忘れがたいバーバリな春だった。
(写真は)
入学式の朝。
美しいオレンジ色の朝日が昇る。
新一年生を祝福する春の空だ。
おめでとう。

