記憶に残るヌーヴォー
「パリに献杯」。
ボジョレー・ヌーヴォー解禁日。
今年は静かにグラスを掲げます。
ワイングラスのルビー色が哀しげに揺れた。
2015年11月19日。
ワイン好きが待ち望んだボジョレー・ヌーヴォーの解禁日、
バブルの頃は過熱気味だったお祭り騒ぎの熱もひき、
日本でも豊穣の実りに感謝を捧げる日、
素敵な季節の風物詩として根づいてきましたが、
今年の解禁日は特別。
我が家でも夫が仕事の帰りがけに
ちょっとお高めの「ヴィラージュ」とコスパの良いペットボトルのと、
2本のボジョレー・ヌーヴォーを買ってきました。
解禁日当日、折角なので夕方のニュースを見ながら、
コスパの良い方を一本開けることにしましょう。
買い置きのチーズにクラッカー、干し葡萄などで
ささっと簡単おつまみプレートを添えて、
2015ボジョレー・ヌーヴォーをグラスに注ぐ。
鮮やかなルビー色が美しい。
愛する街へ哀悼の思いをこめてグラスを高く掲げる。
「パリに、献杯」。
まるごとしっかり葡萄の味がする。
フレッシュでいながら濃厚な味わい。
今年の葡萄は開花も早く6月頃から気温が上昇、夏も暑く乾燥し、
一時は干ばつも心配されましたが、非常に良い状態で収穫を迎え、
結果的に2015年のボジョレー・ヌーヴォーは
「記憶に残る素晴らしい出来栄え!」となりました。
専門家によると、世紀のヴィンテージとなった2009年と比べ、
2015年は干ばつの心配がありながら、
造り手の努力によってもたらされた「グレートヴィンテージ」として
高く評価されているようです。
暑く乾燥した夏の日照りに耐えた今年のボジョレー・ヌーヴォーは
葡萄の果皮の色が濃く、
果実の凝縮味がしっかり感じられる味わいが特徴とか。
確かにフレッシュな新酒でありながら、
葡萄の風味がしっかり、心なしかルビー色も濃いような。
今年のヌーヴォーは、苦難に耐えた力強い味がした。
目の高さに掲げた一杯の赤ワインが語りかけてくる。
大地にしっかり根を張って生き続ける、と。
「私と息子は2人になった。
でも世界中の軍隊よりも強い」。
パリ同時多発テロで妻を亡くしたフランス人ジャーナリストが
SNSに綴った文章に世界中の共感が広がっています。
残された1歳5カ月の幼い息子を思って書いた文章が
今朝の新聞に掲載されていました。
息子には憎しみを抱かずに
世界に目を見開いて生きていってほしい。
そう願う父はテロリストへ「憎しみという贈り物はあげない」と綴ります。
自分たち父子は「世界中のどんな軍隊よりも強い」。
そして文章はこう続いていました。
「君たちのために割く時間はこれ以上ない。
昼寝から覚めたメルビルのところに行かなければならない。
彼は生後17カ月で、いつものようにおやつを食べ、
私たちはいつものように遊ぶ」と。
魂が引き裂かれるような悲劇に遇おうとも、
いつものように、いつものように、いつものように、日常を生きる。
幼い息子の人生が幸せで自由であり続けるために
私たちに憎しみに割く時間はない。
母を喪った息子のために父が手に取るのは復讐の武器ではなく、
いつものおやつ、彼が大好きなビスケットに温かいミルク、だった。
いつものように。
深い悲しみのどん底で日常を続ける勇気よ。
憎しみの連鎖が世界から幸せと自由を奪うことを
一人の父の文章が静かに語りかけてきます。
パリに、献杯。
さあ、いつものように、日常を続けよう。
(写真は)
「記憶に残る」
2015年のボジョレー・ヌーヴォー。
私たちの記憶に刻まれるのは
ワインの出来栄えだけじゃない。



