肉とシャンパン

無性に肉が食べたくなった。

昨夜、あるドキュメンタリーを観ていたら、

冷えたシャンパンで霜降り肉を食らいたくなった。

番組名は「瀬戸内寂聴 密着500日」。

寂聴さん、93歳。

あなたは、凄い。

「私が死ぬまでカメラを回しなさい」と

寂聴さんから全幅の信頼を受けたディレクターが

NHKスペシャルとしてまとめた作品は

昨年、がんと診断され、入院、手術、リハビリを経て回復、

ふたたびペンを手にし、執筆に戻るまでの500日を

丹念に追いかけていました。

冒頭から登場するのは、肉、肉、肉、そしてシャンパン。

霜降り肉をしゃぶしゃぶ鍋に放りこむなり、

「ほらほら、肉肉、肉食べなきゃ、他のなんかいいから」と

カメラを回すディレクター氏に大きな肉を取り分けながら、

同時に自身も大きな口を開けて頬張る頬張る。

また別の日の食卓にはホットプレートの脇に

それは見事な分厚いヒレ肉が何枚もスタンバイしていた。

何よりもお肉が大好き、晩酌は毎晩。

93歳の作家、僧侶の日常は

肉とシャンパンと朗らかな笑顔に彩られていましたが、

がんの手術、退院後は食卓に座るのもしんどいほど体力が衰え、

食堂から30mほど離れた書斎へも歩いていくことができなくなりました。

入院前より一回り小さくなった寂聴さんが

カメラの前でぽつんと呟いた。

「私、なぁ~んにも生みだしていない。

何も生産していないのが、耐えられないの」。

痛み、リハビリ、戻らない体力、食欲もさることながら、

「何も生み出していない」のがいちばん、辛い。

老いや病がその身に迫ろうとも、

作家は作家、どこまでも作家、なんだ。

物を書く人の、凄みを見たような気がします。

痛いより、苦しいより、動けないより、食べられないより、

書けないのが、辛い。

やがて書斎に戻れるまでに回復、

闘病を経て変わった自身の境地をテーマに小説を書き始めます。

何ヶ月か前は食卓に3分と座っていられなかった寂聴さんが

原稿用紙を前に愛用の万年筆を一心不乱に走らせます。

あっという間に4時間が経ち、ふとペンを止め、虚空を見つめる寂聴さんに

「疲れませんか?」とカメラのこちら側から

ディレクター氏が問いかけました。

「全然。書いてるとね、昂揚するの」。

一瞬こちらを見て答えた後、視線をまた虚空に戻し、寂聴さんは言った。

「いくら書いてもね、満足しないの。まだまだ満足できないの」。

パッカァ~ン!

93歳の作家に柔らかいスリッパで頭を殴られたような衝撃。

どんな仕事でも「これでいい」なんて満足するなんてまだまだ100年早い。

ベテランとか熟練とか甘っちょろい言葉に安住しなさんなってことだな。

「一番大事なことは文学、文学にために出家した」。

波乱万丈、ドラマティックな人生に目を奪われがちですが、

51歳での出家の真相は、実にシンプルな理由だったことも

カメラの前でさらりと明かしています。

人間の業を文字に替えて原稿用紙に埋めていくには

相当なエネルギーが必要だ。

作家には霜降り肉とシャンパンがよく似合う。

番組終盤、執筆再開した寂聴さんは

食卓で霜降り肉のすき焼きを美味しそうに頬張っていた。

93歳の最新作が、楽しみだ。

若輩者が「お肉はもう・・・」なんて100年早いな、

冬に備えて、ガッツリ、肉、食らいますか。

(写真は)

早速、肉料理。

「簡単ローストビーフ風・プチステーキ」

週末のボジョレー・ヌーボー・ランチパティーの一皿。

諸般の事情から霜降り肉ではありませんが(笑)、

たまのお肉、一気に力が漲ってきた、ぞ。