考えるカキ

小説を書く作業は「一人カキフライ」。

カキは美味しい哲学、だったんだ。

作家の言葉に感動の朝。

先週末、村上春樹氏が郡山市で開かれた文学イベントに参加、

国内でのこうした催しで発言するのは珍しく、

朝刊にその詳細が掲載されていました。

サプライズゲストとして登場した村上氏は

「僕はカキフライの話をします」と切り出します。

大のカキフライ好きなのに、奥さまが揚げ物嫌いなため、

「一人で揚げる」んだとか。

世界のムラカミハルキが台所で一人淋しくカキフライを揚げる!?

「一人で食べるカキフライはおいしいけど、寂しい。

寂しいけど、おいしい。孤独と自由の関係のように永遠に循環する。

自分の中にある言葉を一つ一つすくうという作業は孤独な作業で、

一人カキフライに似ている」。

カキフライを揚げながら、文学の本質を語る。

深遠な哲学をわかりやすい言葉で語る。

やっぱり村上春樹は、凄い。

「自分が小説を書いていると思うと頭が重くなるけれど

カキフライを揚げているんだと思うと、楽になります」。

何だか現代人を救う言葉にも思えてきました。

孤独に打ちひしがれ、疎外感を感じ、希望を見いだせない時もある。

でも、考えてみて。孤独ってことは、自由だってことでもあるんだよ。

寂しいけど、おいしい状態にあるんだよ。

誰も作ってくれないから、台所で一人カキフライを揚げているのと同じさ。

多分、人生とは、一人カキフライ、なんだ。

「人生はサンドイッチ」と例えたフランス映画がありました。

分厚いハムの年も、涙が出るほど辛いマスタードの年もあるってね。

「人生はチョコレートの箱」とは映画「フォレスト・ガンプ」の台詞。

「開けてみるまでは何が入っているかわからない」。

確かに甘いチョコも苦いチョコも入っていますもんね。

だがしかし、古今東西、名言、格言、箴言、数多けれど、

小説を「カキフライ」に例えた人はいなかった。

料理好きの作家らしい、素敵な言葉だ。

村上春樹大好きポイントは人それぞれ星の数ほどあると思いますが、

私は作品の中の料理を描写する場面に魅かれます。

「1Q84」でも主人公の天吾は実にまめに淡々とごはんを作ります。

それは材料や道具に凝りまくった「男の料理」などでは決してなく、

身近な食材を使いながら、どこか季節や気分を感じさせる献立。

孤独と自由の間を永遠に行ったり来たりしながら、

人は、毎日、ごはんを作り、食べる。

「孤独死」とか「老人漂流」とか「下流老人」とか

孤独な老いを象徴するワードに現代人は不安をかきたてられますが、

「一人カキフライ」だって思えば、心がずいぶんと豊かになる。

孤独と自由は表裏一体。一人で作り食べるのは寂しいけど、おいしい。

おいしいけど、寂しい。寂しいけど、おいしい、おいしいけど寂しい・・・

カキフライは哲学。

人間は、考えるカキ、である?

(写真は)

しげパンの「塩パン」。

さくらい印の粒あんパンを作ってくれたパン屋さんの人気パン。

バターを身ごもったパンの上に幾粒かの岩塩。

この簡潔さが人の心を引きつける。

無口なパンは哲学的だ。

人生は塩パン(笑)?