天国のごはん

どこまでもどこまでも幾重にも続く緑の棚田。

世界遺産「天国への階段」を支えてきたのは

素朴で滋味深い家庭の味。

泣きたくなるほど懐かしくて美味しい。

昨日の金曜日ごはんのテーマは「棚田」。

ルソン島中部のコルディエラ山脈の急斜面に作られた棚田は

世界最大規模を誇り、「天国への階段」と形容されています。

イフガオ族が2000年をかけて神から与えられた宝として

世代から世代へと受け継がれ、1995年に世界遺産に登録されました。

先祖代々、昔と変わらぬ手作業で棚田を耕す人々が食べていたのは

「究極の家庭料理」でした。

「豚肉と葉物野菜のニンニク蒸し煮」。

料理研究家のコウケンテツさんが現地でホームステイした時に

出会って感動、アレンジ再現したお料理です。

先日の新聞記事で見かけ、「絶対作ろう!」と料理魂がそそられました。

料理のプロが旅で出会った究極の味。

それは実に素朴でシンプルな一品でした。

棚田を耕す大家族の家事を担うのは15歳の娘さん。

裕福とは言えない暮らしのなか、作ってくれた食事は毎日同じメニュー。

山盛りのキャベツと白菜と少しの塩豚と豚の脂にニンニクを加え、

まきの火にかけてじっくり炒めた野菜を汁ごとご飯にかけたものでした。

コウさんは「こんなうまい野菜炒めは食べたことない」と思うほど感動、

帰国後、キッチンでチャレンジしますが同じ味わいには再現ができず、

「料理は素材と技術だけではなく、その土地の環境や

人々の歴史もまた関わっている」と痛感、

今でも初心を見失いそうになったときにこの料理を作るそうです。

早速、コウさんアレンジのレシピで作ってみました

材料は白菜、キャベツ、豚バラかたまり肉にニンニク、だけ。

急峻な山あいの村でも手に入る食材そのまま。

まずは豚肉にフォークでところどころ穴を開け、

塩と粗びき胡椒をよ~くすりこみます。

厚手の鍋にざく切りにした白菜の芯の部分、キャベツ、

白菜の葉の順に入れ、豚肉をのせてニンニクを散らし、

酒とオリーブオイルをふり、蓋をして中火にかけ、

沸騰したら弱火に落として30分ほど蒸し煮するだけ。

切って、重ねて、ふたして、まきの火にかける。

ルソン島の美しい棚田が広がる絶景に囲まれ、

家事を担う15歳の少女の細腕が毎日これを繰り返しているのですね。

とろとろ燃えるガスの青い炎がいつしか赤い熾火に見えてくる・・・。

おおお~、まだ見ぬ棚田の風景をぼぉ~っと妄想しているうちに

しゅんしゅん・・・、オレンジ色のル・クルーゼがイイ感じの音をたててきた。

そろそろ出来上がりだ。

鍋の蓋を開けると・・・ふわぁ~~~優しく甘い大地の匂いがする。

とろとろくたくたに蒸し煮された葉物野菜の森から

ぷるぷるに煮上がった豚バラのかたまりを取り出して、

熱っ、アチチ・・・熱々のお肉を食べやすい大きさに切り、

ふたたび鍋へ戻し、野菜と混ぜてなじませ、

うまみを全体にまわしてあげたら出来上がり。

北窯の素朴なやちむんの大皿に盛り付けましょう。

「さあ、召し上がれ~」。

仕上げに黒胡椒をガリリと挽いた大皿を食卓の真ん中に。

こういうお料理は大家族でつつくのがお似合いだが、

夫と二人、つつましく、つつきましょう(笑)。

抵抗力を失った(笑)くたくたの葉野菜と豚バラ肉を一緒に口の中へ。

「う、うんまぁ~~~い!」

夫婦同時に大家族に負けない大音量で叫んだ。

切って、重ねて、ふたして、火にかけただけ。

こんなにシンプルな料理なのに、なぜこんなにうまいのか。

豚の旨みと脂の風味と葉物野菜の甘みが混然一体。

調味料は塩だけなのに食材の旨みが凝縮した煮汁が金色に輝いている。

「天国への階段」で獲れたお米のごはんにぶっかけたくなる味だ。

まさに「天国のごはん」。

コルディエラ山脈に広がる棚田の上には必ず森があるそうです。

山に降り注ぐ雨は森に蓄えられ、小さな流れとなって棚田に流れ込みます。

森は棚田にとって大切な命の源。

急峻な山と森と2000年続く棚田は水を介して形成された緑の宇宙。

葉物野菜と豚肉とニンニクを閉じ込めた鍋もまた美味しい宇宙だ。

乏しい食材を大切に時間をかけて美味しく調理する知恵。

今日は大きな豚肉を贅沢に使いましたが、

棚田の村では貯蔵している塩豚を少しずつ大切に使って、

汗水たらして働く大家族の胃袋を支えてきたのです。

白菜の葉っぱ一枚も粗末にできない。

食べ物と料理への感謝の思いがふつふつわき上がってくる。

天国のごはん。

それは真面目で謙虚な味がした。

原点の味は泣きたくなるほど美味しかった。

(写真は)

見た目も材料もシンプルだけど、

ほんと、のけぞるほど、美味しい。

「葉物野菜と豚肉のニンニク蒸し煮」

それはまだ見ぬ緑の棚田からの贈り物。

ごちそうさまでした。