海へ。

まっすぐ海へ向かうんだよ。

青く広い海だよ。

お母さんが大好きだったあの海だよ。

10匹の赤ちゃんに心からのエールを。

「母ウミガメ事故死から奇跡の誕生」。

今朝の朝日新聞社会面に載っていた囲み記事の見出しに

思わず目が吸い寄せられました。

今年の夏、沖縄の大宜味村で車に轢かれ、瀕死のアオウミガメを

地元の人が見つけ、沖縄美ら島財団総合センターに運び込まれましたが、

残念ながら死亡。「おなかの中に卵がある」と直感したセンターの研究員が

すぐ解剖し、80個の卵を取り出し、孵化器で温めて育てたところ、

今月10日、卵の殻を割って初めて赤ちゃんが誕生、その後も続々孵化し、

14日に早く生まれた10匹が無事に海に帰っていったというニュースでした。

沖縄の人々が一生懸命つないた命のリレーによって、

ウミガメのお母さんの忘れ形見が海に巣立った。

心がほっと温まる一方で、

産卵のために砂浜にあがってきたウミガメのお母さんが

どうして交通事故に遭ってしまったのか、

痛ましい事故の状況が気になりました。

お母さんはどうして車が走る道になんていたの?

地元新聞の記事などを検索してみると、

事故が起きたのは大宜味村喜如嘉の国道58号線。

喜如嘉、そう、幻の芭蕉布を求めて旅したことがある場所です。

緑濃い亜熱帯の山々と美しい海岸線に沿ったあの道は

やんばるの自然を体感できるドライブコース。

58号線のすぐ脇に広がる海の青さが目に沁みました。

あの道で、事故は起きた。

8月16日の午後10時15分頃、近所の住民が大きな音に気づき、

現場に行ってみると、瀕死のアオウミガメを発見。

当時は雨が降っていて、視界も悪かったとか。

「アオウミガメは砂浜の奥にまで揚がって産卵する習性があり、

上がった場所がたまたま国道だったのかもしれない」。

そう話す地元の人の証言もありました。

海に迫るように続く国道と砂浜の間には特に障害物がなく、

奥の安全な場所で産卵をしようとしたお母さんが向かった先が

運悪く、車が行きかう国道だった・・・。何とも痛ましいお話です。

ウミガメは外敵を避けるために暗い夜に産卵を行います。

ところが、産まれた子ガメが街灯に誘われて道路に上がることがあり、

現場では4年前にも孵化したばかりの赤ちゃんが事故に遭っていました。

そこで街灯の種類を減らしたり、照らす範囲を調整したり、

ウミガメには見えにくいオレンジ色の光に替えたりと

これまでも色々な事故対策は行ってきたのですが、

大きな親ガメが上がることは想定外だったのか。

今回の事故を受けて、関係機関も専門家の助言を受けて

早急な対策に乗り出す方針とか。

ウミガメのお母さんから取り出された卵は80個。

卵は気温で性別が決まることから

孵化器の温度をオスメスが半々になる29度に設定。

研究員がやさしく霧吹きで水分を吹きかけ、大事に大事に育てた結果、

今月10日、殻を破り、赤ちゃん誕生の瞬間を迎えたのです。

通常70%はある孵化率も20%と低く、卵の数も少なく、

早く出てきて死んでしまった赤ちゃんもいたそうですが、

お母さんガメが命を削って我々人間に託した命が

彼らの故郷である青い海へ帰っていったことは、

まさに、奇跡、です。

現在、地球上に生息している全種のウミガメが

IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに掲載され、

「絶滅の危険が増大している種」とされています。

護岸工事などで産卵行動が阻害されたり、卵が盗掘にあったり、

また無事に海にたどりついても多くの天敵に襲われたり、

ウミガメにとって現在の地球は

決して理想の揺りかごとは言えないかもしれません。

でも、雨の夜、大きな音を聞いて事故現場へ駆けつけた人々、

瀕死のお母さんガメを急いで運び込んだ人々、

一生懸命救おうとした人々、

新しい命の可能性に気づき、卵を孵化させた専門家集団、

さらなる事故対策に乗り出そうとする関係機関、

ウミガメのお母さんからの命のメッセージに

何とか応えよう、報いようとした人々がいっぱいいたことに

大きな希望を感じる朝でもありました。

海へ。

巣立っていったウミガメの赤ちゃんたちよ。

大海原には困難もいっぱい立ちはだかっているかもしれないけど、

砂浜のこっち側で君たちの健やかな成長を祈っているからね。

そしてウミガメのお母さんに心からの冥福を。

(写真は)

秋の夕暮れ。

ビルが笑っていた。

ね?真ん中のビルの壁面、目が二つに口が一つ。

お顔みたいに見えるでしょ?

無機質なビルにも体温がある。

人は、優しい動物なんだよね。