思い出まんじゅう

「これは、美味い」。

自称北海道つぶあん党党首の夫も思わずうなった。

「ね?このお菓子はこしあんに限るでしょ?」

自称北海道こしあん党党首の妻は勝ち誇ったように微笑む。

二人の目の前には北海道ローカルなお菓子がどっしりと横たわっていた。

北海道のこしあん好きが愛してやまない「中華まんじゅう」。

昭和の子供たちにとっては「葬式まんじゅう」と同義語でもあります。

薄く焼かれたカステラ生地でこしあんを包んだ三日月型の和菓子は

かつてはお葬式の引き出物などによく使われました。

お葬式帰りの親たちが持ち帰る立派な化粧箱はずしんと重く、

中には極太バナナのような中華まんじゅうが

みっしりと5本ほど横たわっていたものです。

「わ~い、中華まんじゅうだぁ~、食べたい食べたい~」。

こしあんぎっしりのお饅頭にはしゃぐ子供たちの無邪気な明るさと、

お葬式帰りの大人たちの黒い喪服からかすかに漂うお線香の匂い。

北海道の大きな三日月型の中華まんじゅうを見るたびに

今でもなんだか胸の奥の方がきゅっとする。

「お母さんに切ってもらいなさい」。

黒いネクタイをゆるめながら、そう言ったのは

まだ若かった今は亡き父だったでしょうか。

秋のおやつに夫が頂いてきたのは

旭川の老舗「菓子処まるきた」の元祖中華まんじゅう「まるきた焼き」。

創業明治36年という老舗の中華まんじゅうは昔ながらの自慢の逸品。

今風にお洒落に個別包装されてはいますが、

片手をめいっぱい広げても足りないほどの大ぶりさ、

ずっしりとした重量感は昭和の面影たっぷり。

試しにキッチンスケールで計ってみたら、その重さは200グラム!

ざっとふつうのお饅頭の4個分はあります。

その威風堂々たるヴィジュアルは

昔、不謹慎にも心待ちにしていたお葬式帰りの中華まんじゅうそのもの。

時代とともにスリム化、小型化してきた今風のそれとは一線を画しています。

ああ、懐かしいなぁ。

お清めの塩を払いながら、家の中に上がってきた喪服の父。

子供たちの歓声の中、喪服をたたみ、お茶の用意をする母。

四角い卓袱台、湯呑茶碗を出してきた茶箪笥、傍らのブラウン管テレビ。

包丁で厚めに切られた中華まんじゅうの断面の薄墨色のこしあん。

今はもう戻らない思い出のなかの昭和の風景。

そうだった。

亡き父はこの中華まんじゅうが大好物だった。

まもなく父の命日がやってくる。

もう手土産にその折箱を提げて帰ってくることはないんだよね。

今年は墓前に大きな中華まんじゅうを供えましょうか。

「もう、おじいちゃん、食べ過ぎ~、健康に悪い~」なんて言わないからさ、

たんと食べて下さいな。

(写真は)

旭川名物、菓子処まるきたの中華まんじゅう。

この世にカロリー、糖分という言葉がなければ、

一本まるまんま、丸かじりしてみたい~(笑)。

薄く焼かれているのに風味豊かなカステラ生地に

余分なものが入っていないさらりとしたこしあんが絶品。

一口食べると昭和の風景が蘇る。

タイムスリップな和菓子だった。