されど卵

父を見送ったあの日、

晩秋の日差しに照らされて

色づいた木々が金色に光り輝いていたっけ。

今年は時雨模様のお墓参り。

晴れ間が見えたかと思ったら、

にわかにかき曇り冷たい雨が降りだしたり。

この時季らしい気まぐれな秋の空模様で迎えた父の命日、

母と夫と三人でお墓参りに出かけました。

こしあんたっぷりの中華まんじゅうに道産小豆のどら焼き、

好物の和菓子とともに、父が好んだドリンクも一本供えます。

北海道限定の清涼飲料「リボンナポリン」。

暑い夏の日など、お酒を飲まなかった父は

「好きなアイス買っといで。おじいちゃんにはナポリンな」と

小さかった息子にお隣のコンビニまでよくお使いに行かせていました。

今でも息子は帰省するたびに

おじいちゃんが好きだったナポリンを仏壇に供えます。

秋の命日には大学があるので帰ってこられません。

忘れずにあんこ系と一緒にオレンジ色のドリンクも一本。

「はい、ナポリンもね」とお供えしようとした時、

大谷選手と目が合った(笑)。

「2015 SEASON FINAL 大谷翔平ラベル」、

シーズンクライマックスに向けて

ファイターズとコラボした特別ボトルなのでありました。

残念ながら日本シリーズ進出は逃してしまいましたが、

「おじいちゃん、知ってる?大谷翔平だよ、凄い選手だよ」と

野球ファンだった父に報告しておきました(笑)。

「おじいちゃん、大谷選手、知ってたかな?」

「いや、知らないでしょ、亡くなった後だもん、入団したの」

「そうか、そうだよね~、もう5年経ったんだねぇ~」。

夫とそんな会話を交わす横で母が静かに手を合わせる。

故人を偲ぶよすがは色々ありますが、

今年はファイターズとともに父を思いだす命日となりました。

お墓参りも無事すんで、ちょうどお昼少し前。

今日のランチは行きつけのお蕎麦屋さんに向かうことにします。

黒塀も粋な京都風の木造家屋の一軒屋「さくら庵」。

ご近所でも有数の人気店で店の前の駐車場はいつも満車、

お昼どきなどなかなか入れず、最近フラれてばかりでしたが、

まだ12時前、よし、車一台分空いてるぞ、

よしよし、天国のおじいちゃんのアシストかもしれません(笑)

個室風になっている奥のテーブル席に落ち着いて、

さあ、何食べようかな~っとお品書きを手に取るものの、

「う~ん、私、やっぱり、たぬきとじそば」。

そうなのです。この「さくら庵」、

冷たいお蕎麦も揚げたての天婦羅そばも鴨ねぎそばも

何でもかんでも絶品の美味しさなのですが、

揚げ玉を卵でふっくらとじた「たぬきそば」にどうにもぞっこん、

結局、悩みはするものの、毎回注文は「たぬきとじそば」(笑)。

浮気、できないの。

「はい、お待たせしました~」。

早からず遅からず、いつもながら絶妙なタイミングで

わが愛しの「たぬきとじそば」が運ばれてきました。

おおお・・・いつにもまして美しい卵の色よ。

ふんわり天女の羽衣のごとく重力を一切感じさせない佇まい。

家でも何度か試したのですが、絶対真似できない。

「いただきまぁ~す」。

上品な色白細身の更科蕎麦をすっと箸ですくい、

羽衣のような卵とじをそっと上に載せ、静かに口に運ぶ。

お・・・美味しい・・・この味、この食感、この優しさ、

我が愛しのたぬきとじそばよ。

さらにもう一口・・・うん・・・?もしかして・・・更に進化している?

絶妙なふんわり感はそのままにさらなる「とろりん感」が加わったような。

そう・・・まるで・・・極上カプチーノの濃厚フォームミルクのよう。

細いお蕎麦の上に載せても卵の分子が途切れない。

微粒子レベルでふわとろに結合したような奇跡の卵とじに進化している。

むむむ・・・気のせいか、いやしかし、

昨日今日たぬきとじそば食べ始めた素人ではないぞ(笑)、

この尋常ならざるふわとろ加減、卵にかける料理人の矜持を感じる。

ざざっとフライパンでかき混ぜただけのスクランブルエッグと

湯せんの低温で丁寧に加熱する極上フレンチのスクランブルエッグ、

同じ卵でも調理方法によって芸術品のような仕上がりになるもの。

卵って、ごまかせない。

身近な食材だけど、されど卵。

卵を笑うものは卵に泣く。

たぬきとじそばは決して高価なおそばではないけれど、

卵とじひとつに決して手を抜かず、真剣に向き合うお蕎麦屋さん。

ご近所に真のプロフェッショナルなお店があるのは幸せなこと。

このお店も家族みんなでよく来たね。

今日も変わらず、いや更に進化して美味しかったよ。

天国の、おじいちゃん。

(写真は)

冷めないうちに急いでパシャ。

渾身のたぬきとじそば。

卵の羽衣は芸術品。

また揚げ玉が、美味い。

上質な天婦羅の副産物、美味いわけだよね。