大先輩セッション

初めての旅人も「ただいま」と言いたくなるような

温かな雰囲気に満ちた老舗食堂。

那覇の久茂地の名物店「まんじゅまい」。

「夏の沖縄旅」7日目、1泊2日の宮古島「旅中旅」から戻った夜は

石垣島出身のご主人の素敵なお話でふけていくのでした。

「まんじゅまい」とは石垣島の方言でパパイヤのこと。

創業40年の食堂のメニューには

沖縄の自然の海水から作る名物「ゆしとうふ」とともに

もちろん「まんじゅまいチャンプルー」もありました。

ほかほかのお料理が出される厨房のカウンターの上方に

一対の不思議なお面が飾られています。

老人を表す能面にも似ています。

唄も三線も祭りもすべて島の「先輩」から教わったというご主人。

お話の中に何度も出てくる「先輩」という言葉が印象的でした。

島にいる人も、島を出た人も、

血縁関係に限らず、多くの目上の人たち「先輩」から

大切な島のアイデンティティーを受け継いでいるのだそうです。

「店のライブもね、若い人たちへの橋渡しのつもりもあってね」。

石垣の誇りを島ぐるみで次世代へつなごうとするエネルギーが

ご主人の熱い口調ににじみでていました。

「でも、アンガマは、特別だな」。

壁に飾られた例のお面を見上げながらご主人が呟きます。

「あれは、誰でもできるわけじゃない。アンガマは、特別だ」。

「アンガマ」・・・?

木彫りの不思議な老人のお面。

見れば見るほど、吸いこまれていくような磁力が。

「アンガマ」とは旧盆に行われる石垣島の伝統行事。

主役は「ウシュマイ」と「ンミ」という「我々の遠い遠い大先輩」で、

木で作られた細長いあの一対のお面が

あの世からやってきたおじいさん(ウシュマイ)とおばあさん(ンミ)なのです。

旧盆(ソーロン)の時期、あのお面をかぶった2人が

手ぬぐいやサングラスで顔を隠したお伴を引き連れ、

集落の仏壇のある家を回るのですが、

一番の見所は「あの世からの近況報告」ライブ(!?)。

仏壇前にわんさと詰めかけたお客から質問が飛び、

ウシュマイとンミは裏声で面白おかしく回答するのだそうです。

もちろんシナリオや台本などない、正真正銘のアドリブ。

「ウチのおばぁはあの世で達者にしているか」とか

「財布を落とした、(ご先祖さま)が何とかしてくれないか」とか

さまざまな質問に「ウチカビ(紙のお札)なら持ってるけどな~」などなど

当意即妙にとんちを効かせて返す2人に拍手喝采、座は大盛り上がり。

これが「アンガマ」。

石垣島の「大先輩」による伝統的お笑いセッションとも言えそうだ。

「アンガマ」はソーロン(お盆)に帰ってくるご先祖の霊をもてなすために

地域の青年会が中心になる独特の扮装と裏声で

楽しい掛け合いや踊りを披露する風習。

この主役となる「ウシュマイ」「ンミ」に扮するには

相当の度胸とアドリブ力、頭の回転が要求されるわけで

「誰でもできるもんじゃない」という先ほどのご主人の言葉に納得。

青年部の中でも「才能」を買われた若者が「先輩」たちから色々教わり、

一人前の「ウシュマイ」「ンミ」になっていくのだそうだ。

能弁さと洒落のセンスも要求され、

さらに言葉はすべて質問する方も回答する方も八重山の方言。

しかもご主人によれば、ただ面白おかしく返せばよいものではなく、

笑いのなかにそっと人生訓や教訓を含ませるのだという。

先輩から後輩へ、日々の暮らしの中で伝統を尊び紡がれていく石垣島。

自分たちの根っこを大切にする風土があるって素敵だ。

「アンガマ」は一般の民家で行われるものですが、

お庭や玄関先などから誰もが自由に見学できるといいます。

旧盆の直前には、島の新聞に各青年会のアンガマスケジュールが

訪問する世帯主と住所まで一軒一軒掲載されるそうです。

なんとオープンな、開かれた伝統行事でしょう。

観光客でもタイミングがあえばリアル「アンガマ」に遭遇できるのです。

むむむ~、行ってみたい、見てみたい、生「アンガマ」。

旧盆の夜、石垣の市街地を歩いていると

どこからか賑やかな音が聞こえてくる。

三線を弾き、太鼓を打ち鳴らし、笛を吹いて念仏を唱えながら

家々を訪ね歩く不思議な集団に遭遇するはず。

それはこの世の後輩たちに会いにやってきたあの世の「大先輩」たちだ。

この世とあの世の垣根を超えて先輩と後輩が交歓するソーロンの夜。

いつか面白おかしく心を通わせる「アンガマ」を体験してみたいものだ。

「ますます石垣島へ行きたくなりました~」。

ご主人の楽しい石垣自慢にすっかり魅了された旅人。

ふと木彫りのお面を見上げると、

「いつでもおいで、待ってるさぁ~」

ウシュマイとンミが片目をつぶったように見えた(気がした)(笑)。

ミシュラン三つ星の絶景「川平湾」、八重山伝統の「ミンサー織」

「八重山そば」に「島胡椒(ヒバーツ)」ブランド肉「石垣牛」・・・。

まだ見ぬ石垣、まだ食べぬ(笑)石垣に旅心がそそられる。

次なる目的は・・・石垣あたり・・・うふふ。

「ごちそうさまでした~。とっても楽しかったですぅ」。

お腹も心も温かい石垣トークにすっかり満たされて

老舗食堂「まんじゅまい」を後にする。

宮古島から戻った夜に心は既に石垣島に。

こうして「夏の沖縄旅」7日目は

充実のうちに眠りにつくのでありました。

(写真は)

アンガマのお面。

ウシュマイとンミの笑い顔を見ていると

心の奥の方の凝りまでも

じんわりじんわりほぐれてくるような気がする。

誰をもほっとさせる不思議な笑顔。

「のんびり行けよ、あせりなさんな」。

「遠い遠い大先輩」のあったかい伝言が聞こえてくる。