百合と飛行機

夏の沖縄旅。

4日目は那覇ステイで気軽に日帰りできるご近所楽園、

美しい伊江島をワンディトリップ。

午前11時にレンタカーごとフェリーに乗り込んで本部港を出港、

30分で伊江島に到着、帰りのフェリーは16時発、4時間は遊べます。

さあ、短い滞在時間でどんな風景に出会えるでしょうか。

伊江島は空から見ると可愛いピーナッツのような形をしています。

おへそのように見える標高172mの城山(ぐすくやま)以外はほとんど平坦で

周囲22キロの小さな島は車ならば半日あれば島内一周も十分可能。

さあ、レンタカーごとフェリーを降りて、

島の港から伊江島ドライブのスタート。

空は薄曇りですが、風は穏やか、流れる空気もどこかゆったりしています。

まずは島の人が「タッチュー」と呼び、古くから信仰の対象ともなっている

島のシンボル「城山(ぐすくやま)」をめざして、

港から島の中央に向かって車をゆっくり走らせます。

フェリーターミナルでもらった島内地図が唯一の頼り。

幹線道路と生活道路がほとんど同じ道幅で交差する島の道、

カーナビはほとんど役に立ちそうもありません。

え~っと、海を背にして・・・地元コンビニのココスの前を左折・・・?

ああ~、多分大丈夫、道の向こうに役場があります。方向は合っている。

その伊江村役場の左手を進むとまもなく見えてきました。

・・・あれが・・・「公益質屋跡」。

年月を経た堅牢なコンクリートの建物には窓ガラスも窓枠も一切なく、

壁や天井にはおびただしい弾痕が残っています。

実は旅の目的のひとつはこの島の戦跡を訪ねることでもありました。

伊江島は沖縄戦の中でも激戦地になった島。

米軍の激しい攻撃を受け多くの人命と財産を亡くした歴史を物語る戦跡が

島の各所に残され、保存されています。

短い時間でも島の美しさと歴史にできる限り触れたいと思い、

まずはこの建物に向かったのでありました。

沖縄戦の初期、昭和20年4月16日から21日まで

「六日間戦争」と呼ばれる日米の激しい戦闘がここ伊江島で繰り広げられました。

その6日間で日本軍約2000人、村民約1500人が犠牲となりました。

当時の島の人口の半分がわずか6日間で失われるという熾烈な戦い。

その事実を今に伝える、唯一現存する建物がこの「公益質屋跡」なのです。

米軍の攻撃を受けて村の建物はことごとく焼き払われましたが、

かろうじて原形をとどめているのがこの堅牢な建物でした。

「公益質屋」は昭和初期、

高利貸しの暴利に泣く島民を救済するために設立された村営の金融機関。

戦前のコンクリート建造物の研究で注目されている頑丈な建物は

「鉄の暴風」と呼ばれる米軍の猛攻に晒されながらも

戦後70年の夏、島の濃い緑に抱かれるように静かに佇んでいました。

なだらかな坂道の中腹にある建物。

2階の壁は大きな砲弾が突き抜けていったのでしょうか、

その向こうに大きな闇を抱えたまま、ぽっかりと大きな口を開けています。

その当時、おそらく昭和モダンでお洒落なこの建物は

島の人々の自慢であり、誇りであり、

暴利から守ってくれる住民福祉のための安心の場でありました。

今は堅牢な外壁だけが残った空間に

かつては事務机が並び、算盤を弾く音、帳簿をめくる音、人々の声が

賑やかに行きかっていた島の生活の大事な一部だったのです。

平坦な地形を活かして作られていた飛行場を押さえるために

米軍が静かで小さなこの島を狙い撃ちするまでは。

遠くから斑模様に見えた外壁のグレーの濃淡。

そっと近寄って見ると、それは夥しい弾痕でした。

人気のまったくない静かな静かな公益質屋跡。

聞こえるのは濃密な熱帯植物の葉がそよぐ音だけ。

でも、目をつぶると、戦後生まれの私は聞いたことのないはずの、

爆撃音や発射音が耳元で炸裂したような気がしました。

体験したことがないはずの戦争の記憶の追体験。

かつて、ここで、戦争が、あった。

その歴史と意味を胸に刻む。

初夏、伊江島には美しい真っ白なテッポウユリの花が咲き乱れます。

ヨーロッパではマリア様の花として愛される花。

そう、だから、ピーナッツの形をした小さな島は

別名、サンタマリアの島。

飛行機を飛ばすには絶好の地形だった平坦な島の地形が

70年前、熾烈な戦闘の的になってしまったのでした。

マリア様も守り切れなかった激しい戦いを経験した島には

まだかなりの数の遺骨が人知れず土の中に眠っているといいます。

白いユリの季節は終わってしまったけど、

心の中でせめて弔いの花束を。

戦争で犠牲になったこの島の人々に慰霊の祈りを捧げ、

銃弾を浴びてなお立ちつくす公益質屋跡にそっと別れを告げて、

島のシンボル、城山(ぐすくやま)に向かいます。

サンタマリアの島よ。

永遠に平和であれ。

(写真は)

島の中心部にそっと残る、沈黙の戦争の証人。

伊江島の「公益質屋跡」。

日帰りで行ける離島には

日帰りでも訪れたい戦跡が複数ありました。

ドライブの途中に立ち寄ってみてほしい。