沖縄リポートその②~一期一会一魚
夏真っ盛りの沖縄を旅した9日間。
初日からディープな沖縄グルメに遭遇。
今回も素敵な旅が始まる予感にわくわく。
だから、沖縄って大好き。
爽やかな6月の青空が広がる新千歳空港を出発して、
東京羽田で乗り継ぎ、お昼は空港内にあった白金のお蕎麦屋さんで。
お上品な更科蕎麦をささっとすすり、いざ那覇行きの便へ。
ほぼ定刻の午後3時に那覇空港へ到着。
飛行機から1歩踏み出すと、どこからか甘やかな南国の香りが漂ってくる。
ああ、9か月ぶりの沖縄です。また来たよ。
この時期にしては雲が多く、突き抜けるような青空ではありませんが、
暑い、しかも、いつもの年よりもいささか湿度が高め、
ちょっとバリの空港に降り立ったような錯覚を覚えましたが、
「めんそ~れ」の文字、あちこちで歓迎してしてくれるシーサー、
そう、ここは間違いなく愛する沖縄であります。
空港近くで予約したレンタカーに荷物を積み替えて、
ナビに定宿のホテルを打ちこんで、中心部へ出発。
車社会沖縄、いつも通りの渋滞は少々ありましたが、
それでもものの20分もかからずにホテルに到着。
さくさく荷物をほどき、洋服をクローゼットに収納していきます。
北海道ではほとんど出番のないノースリーブばかり。
だってぇ、沖縄で着ないでどこで着るのぉ~。うふふ。
さあ、夏服に着替え、スニーカーをサンダルに履き替えたら、
沖縄到着初日の晩ご飯にお出かけです。
ず~っと気になっていた噂のあのお店、ようやく予約とれたんだも~ん。
沖縄の人でも名前のわからない魚が出る。
そもそも手書きのメニューが読めない。
謎の文字で書かれた謎の島魚が並び、島んちゅですら解読不能。
大将に「おすすめは?」と聞くのは御法度・・・などなど。
そんなさまざまな「噂」を聞く魚料理のお店が泊にあるらしい。
地元情報を頼りに探し当てたそのお店の名前は「いゆじ」。
「いゆ」は沖縄の言葉で「魚」を表しますが、
この店は専門家も驚きの奇跡の魚が食べられるらしい。
むむむ~気になる気になる、ここまで聞いて行かずにいられようか。
予約がマストらしいので、出発の3日目から電話をするものの、
一向に出る気配がありません。
定休日ではないのですが・・・海が荒れているのか、魚がいないのか?
99%あきらめていたのですが、出発前夜、ようやく電話がつながった。
「はい、いゆじです」「あの、明日の夜、予約を入れたいのですが・・・」
「あ、あ~、明日は明日にならないとわからないんですよね。
明日3時過ぎには店開くかどうか決まってますから、
それ以降電話してみて下さい」
「は、はぁ・・・、わ、わかりました、3時過ぎですね」。
恐るべし「いゆじ」、明日の魚は、明日にならないとわからないんだ。
で、先ほど那覇の空港へ到着してすぐ、ターンテーブルで荷物を待ちながら
即刻、電話を入れたところ、幸運にも今晩の予約が取れたのでありました。
ワールドカップのチケット並みのプレミアさ(笑)。
「お店はすごくわかりにくいので○○病院目指して来て下さいね」。
良かったぁ、電話の向こうの声は噂とは違って柔らかく優しい。
ちょっとほっとしながら、ぺこぺこのお腹をなだめながらタクシーに乗り、
泊港にほど近い住宅街へ。
おや?予想に反して意外にお洒落なバル風の店構え・・・、
しかし小さな看板には「いゆじ」とあります。ここだ。
「こんばんわ」「はい、いらっしゃい」。
高い天井に白い壁、L字型の大きなカウンターと
大きな木のテーブル席、小さなテーブル席が一つずつの店内は
シンプルで清々しく、余計なこと考えずに魚を楽しめる空間。
カウンターの向こう側の広いオープンキッチンの電話の主がいました。
どうやらこの大将(マスター?)が一人で切り盛りしているらしい。
「えっと・・・まずオリオンの生、お願いします」。
沖縄初日、何はなくとも、まずオリオン(笑)。
・・・で、噂のメニューを手に取る。
6月26日の日付以外は・・・???よ・・・読めない・・・
手書きの文字が達筆というかグラフィックというかアーティスティックすぎる。
何とか判別できても「ガチュン」に「シルユ」「チタンジュ」って・・・何?
メニューから注文するのはすっぱりあきらめた。
意外に優しそうなカウンターの向こうの大将に聞く。
「えっとぉ、よくわからないんで、おすすめありますか?」
「ないよ」。
しまったぁ~!忘れてた~!「おすすめは?」は禁句だったぁ~!(笑)。
撃沈した私に大将がこう続ける。
「お客さんの好みも僕はわからないし、
簡単におすすめなんて言えないからね。
ただ今日出せる美味しい魚は手に入ったからお店は開けてるんでね」。
な~るほど、実に筋が通っている。お魚を愛するゆえの完璧な理論。
「はい、わかりました、
じゃあ、お刺身の三点盛りと煮魚と・・・塩焼き・・・?」
「二人でしょ?食べきれないと思うから、刺身食べて考えたら」
「あ、はい、わ、わかりました、じゃ、まずお刺身、お願いします」
「はい」。
ほっ・・・何だか大仕事をひとつ成し遂げたような、
ビッグプロジェクトを完遂したような、なんだ、この達成感は(笑)。
やがて・・・ピチピチ、ピッカピカのお魚が目の前にやってきました。
「はい、きょうの刺身三点、ガチュンと○△※×と□※○△ね」
かろうじて聞きとれたのはガチュンだけ、慌ててメモを取ろうとする私に
「あ、書いても無駄、一生会えない魚だから」と大将からとどめの一言。
「あ、はい」とペンを置き、大人しくお刺身に箸を伸ばす。
う・・・旨い。南の海の豊かさがきゅっと凝縮されている。
お魚の名前も生前のお姿も全くわかりませんが、
ただ、旨い。
そうだ。それでいいんだ。
今、目の前にある魚が旨い。それだけでいんだ。
「おすすめ」だとか名前だとか、蘊蓄や情報なんて後付けでしかない。
たとえ同じ種類の魚だって撮れる時期、場所、海の状態によって全然違う。
また食べたいと思ってもいつ入荷するかどうかもわからない。
そう、一期一会一魚だ。
だから魚を知りつくした大将は、ひとくくりに語らない、
いや簡単に語れないんだ。
お客はメモを取ったり、食べられる量も考えずに注文する前に、
海から自分の元にやってきた魚にただまっすぐ向き合えばいいんだ。
「多分、人生で二度と出会えない魚ですよ」。
大将の言葉の意味が旨み200%の刺身と一緒に心身に沁み込んでいった。
お刺身でかなり満足した様子を見て
「じゃ、小さめので煮魚しましょうね」と大将の優しい言葉。
お互い、なついてきたようだ(笑)。どうやら友好関係が築かれてきたぞ。
おおぶりの器に食べすい大きさになった煮魚が出されます。
「はい、エチオピアね」「へ?エチオピア???」
忙しい大将を横目にこっそりスマホで検索すると(笑)、
「エチオピア」とは「シマガツオ」の通称らしい。
南の島で獲れるマナガツオに似た魚・・・が名前の由来とか。
しかし、やはり名前はどうでも良かった。
この煮魚がとにかく、すこぶる旨いのだ。
やや濃いめの味付けは甘過ぎることもなく、醤油が立ちすぎてもいない。
添えられた島豆腐にも魚の旨みが沁み込み、
天盛りされた白髪ねぎと水菜がまた清々しい。
料理は人。この煮魚が証明している。「大将、いい人だよ」って。
エチオピア君、わかってるよ。
カウンターの向こうで一人忙しく立ち働くその人は
世界で一番魚を愛する人の一人に違いない。
那覇の中心部から泊港の方向へ。
58号線から住宅街の中に入るとぽつんと一軒、
ぼんぼりのようにほの明るく灯りをともしたお店があります。
お店の名前は「いゆじ」。
ディープでマニアックで島魚を大事に大事にする愛すべき空間。
迷ってでも行く価値あり。
ただし予約の電話は忘れずに。
あ、「おすすめは?」はご法度です(笑)。
(写真は)
これが「いゆじ」の6月26日の刺身三点盛り。
ガチュンと・・・ほか二つ(笑い)。
一切れのボリュームが凄い。
身の柔らかめの魚は炙った皮つき、
しっかりめは皮をはがして、
島魚の個性に合わせて丁寧な仕事がされている。
お魚たちも大将に捌いてもらって幸せだろう。
沖縄初日の夜は「いゆじ」の温かい灯りとともに
甘やかにゆるりと更けていくのでした。

