マリア様と天使のお酒

沖縄本島の北西9キロに浮かぶ

ピーナッツの形をしたのどかで美しい離島「伊江島」。

夏の沖縄旅4日目は日帰りで行けるご近所楽園に

フェリーでレンタカーごと乗りこんでワンデイ・ドライブ。

いよいよ島めぐりのメインイベント、

「マリア様と天使のお酒」を訪ねます。

沖縄のお酒といえば「泡盛」ですが、

その沖縄を代表する基幹作物サトウキビを使ったお酒が注目を集めています。

それが伊江島特産「Ie Rum Santa Maria」。希少な国産ラム酒であります。

聖母マリアの名を冠した「イエラム サンタマリア」は

南国の太陽の下、丁寧に育てられた伊江島産サトウキビの搾り汁のみで仕込み、

じっくりと熟成されたアグリコールラム。

その芳香と味わいと希少性がお酒の専門家からも高い評価を受けていて、

イエラムを使った「オキナワン・モヒート」などは

夏の特別なカクテルとして今、話題を集めています。

噂に聞いていた「イエラム」の故郷を訪ねてみたい。

かねがね願っていたところ、どうやら事前にお電話をすれば

蒸留所見学も受け付けてくれるとわかり、早速、出発前に事前予約。

滞在時間4時間半のメインイベントとして午後2時に約束を入れていたのです。

フェリー出港時刻の4時まで2時間あります。

たっぷりマリア様のお酒に(気分だけ)酔いしれることにしましょう。

そうそう、お酒の名前の由来ですが、

伊江島の春を彩る真っ白なテッポウユリがそのルーツ。

昔は「琉球ユリ」と呼ばれ、江戸時代に海を渡り、

ヨーロッパへ持ち帰られました。

その可憐さと清楚な魅力は当時の人々を魅了、

キリスト教の宗教行事に欠かすことのできない白ユリ「マドンナリリー」を席捲、

「イースターリリー」として今でも愛され続けていることから、

伊江島のラム酒に聖母マリアの名前を冠したというわけです。

さあ、真っ青なサトウキビ畑が左右に広がるのどかな島の道を

「イエラム・サンタマリア」伊江島蒸留所に向かいます。

ざわわざわわ、サトウキビ畑を抜けると、おお、見えてきた。

製糖工場に並んで小規模ながら本格的なプラント設備を整えた建物に到着。

事務所で「2時に蒸留所見学を予約したのですが・・・」と申し出ると、

外の方から、「やあ、お待ちしていました。ようこそようこそ」と明るい声が。

本日、案内をして下さる伊江島蒸留所主任の浅香さんでした。

小麦色の肌の優しい笑顔。よく働く南の男は素敵。

頂いた名刺には「日本ラム協会認定 ラム・コンシェルジュ」とあります。

蒸留所の技術者であり、ラム酒の魅力をも知り尽くしたプロフェッショナルに

案内していただけるなんて、これは光栄、ラッキーな旅です。

「ちょうど昨日仕込んだラムもありますからゆっくり見て行って下さいね。

今日はちょっと曇り空だけど、見学するには却って楽かもしれませんね~」。

立派な蒸留所の建物へ向かいながら、

まずは浅香さんから工場の成り立ちを伺います。

実はこの建物はサトウキビからバイオエタノールを製造するための

実験施設として国の予算で立てられたプラントで、

5年間のプロジェクト終了後に伊江村に寄贈されたもの。

折角の本格的プラントをはてさて、

他の何かにどう利用しようかと島の人たちは考えました。

「色々なアイデアが出たんですけどね、お酢を作ろうとかね。

でも伊江島には『島酒』がなかったんです。

平坦な島で川がない。だからお米がとれないため、泡盛が作れない。

でも、サトウキビはいっぱいある。サトウキビ・・・、そうだラム酒ができるぞ!

サトウキビから燃料を作るプラントを

そっくりそのままお酒を作るプラントに作り換えたというわけです」。

島の人たちが知恵を絞って思いついた素敵なアイデアが

島酒のなかった島のサンタマリアのお酒に結実したのでした。

これもマリア様のご加護か。

蒸留所の入り口の前で、浅香さんが後ろの緑の植物を指差します。

「はい、そこにあるのがラム酒の原料となるサトウキビです」。

ちゃんと敷地のフェンス回りにも

観葉植物代わりにサトウキビが植えられています。

「なるほど、わかりやすいですね(笑)」。

「で、冬場、いっぱい糖分を蓄えたサトウキビを収穫し、

まず最初にこの機械に入れて粉砕し、搾り汁を取り出します」。

蒸留所の戸外に敷設されたコンベア付きの機械がラム酒製造の第一歩。

浅香さんが苦笑しながら続ける。

「これがですね~、もともと実験プラント用の設備なもので、

サトウキビ2本ずつしか入らないんですよ~」。

「へ?たった2本ずつ?」

「そう、アナログでしょ(笑)。地道にスタッフが2本ずつ2本ずつ(笑)」

「まさに手作りですね~」「はい、ある意味ハンドメイドです(笑)」。

今ある施設を「もったいない」精神で有効利用し、

島の経済効果に寄与する試みは実に人間らしい手順から始まっていました。

長年の夢だった「島酒」らしいエピソードかもしれません。

こうして一生懸命搾ったサトウキビの甘い汁が

これから見学する蒸留所で様々な過程を経て、

伊江島特産ラム「イエラム サンタマリア」に変貌していくのですが、

この香り高いお酒にはマリア様だけではなく、

ある天使も大きく関わっているのでした。

380年の歴史を持つ伊江島のサトウキビから生まれたラム酒の

素敵な秘密のお話はまた明日。

さあ、蒸留所へようこそ。

ふわりと甘く深いラム酒の芳香に包まれた。

マリア様と天使のお酒が

旅人を誘惑します。

(写真は)

ざわわざわわと揺れる伊江島のサトウキビ。

380年という長い間、島の経済を支えてきた作物が

今、また新しい歴史を刻みはじめました。

南国に微笑むサンタマリアのラム酒。

イエラム、注目のスピリットです。