マッサン南の島へ

沖縄本島の北西9キロに浮かぶ伊江島。

本部港からレンタカーごとフェリーに乗り込んで

日帰りできるご美しい離島をワンディ・ドライブ中。

夏の沖縄旅4日目はいよいよ伊江島旅のハイライト、

聖母マリアの名を冠したプレミアな国産ラム酒の蒸留所を訪れました。

さあ、ここが「イエラム サンタマリア」の故郷です。

平坦で川がないため、お米がとれず、泡盛が作れない。

そのため島酒のなかった伊江島ですが、サトウキビはいっぱいとれる。

そうだ、自慢のサトウキビでラム酒を作ろう。

バイオエタノールを作るための産官学の実験プラント施設を

プロジェクト終了後にラム酒の蒸留所に活用、数々の苦難を経て、

5年前、島民のアイデアと努力の結晶となる伊江島特産のラム酒、

「イエラム・サンタマリア」が初出荷されました。

蒸留所主任でラム・コンシェルジュの浅香さんの案内で

いよいよ希少な国産ラム誕生物語の現場を見学させてもらいます。

「さあ、どうぞ、足元に気をつけて下さいね」。

浅香さんに続いて大きな扉から蒸留所の中に入った瞬間、

ふわぁ・・・・・うっとりするような芳香に包まれます。

「うわぁ~、いい香り・・・」

「これがラムの香りです。素敵でしょ?

あんな乾いた竹みたいなサトウキビがこんないい香りのお酒になるんですよ」

「ほんと、マリア様の魔法みたいですねぇ」。

うっとりするような芳香に包まれた広い空間には

銀色に光るタンクや無数のライン(製造用の配管)が縦横に走り、

制御用のパネルやメモリがあちこちに配置され、近未来の工場のよう。

先ほど見学した戸外の大きな機械で粉砕されたサトウキビの搾り汁は

パイプを通って、この蒸留所内のタンクに集められます。

そして高温の蒸気で濃縮され、甘い甘いサトウキビシロップに。

この工程こそが伊江島ラムの希少性を物語っていました。

通常のラム酒製造は砂糖を精製する際の副産物である「廃糖蜜(モラセス)」を

原料として作る「インダストリアル製法」が主流ですが、

伊江島のラムはサトウキビの搾り汁をそのまま使う「アグリコール・ラム」。

世界のラム酒のほとんどは前者のインダストリアル・ラムで、

贅沢にサトウキビの搾り汁をそのまま使うアグリコール・ラムは

ほんの数パーセント、日本国内に限ってはわずか1%というプレミアなお宝ラム。

ざわわざわわと豊かに揺れる島のサトウキビの恵みがもたらした

奇跡のお酒とも言えます。

「これがラム酒になる前の煮詰めたサトウキビのシロップです。

ちょっと一口なめてみてください」。

浅香さんが貴重なシロップを小さなスプーンで特別に味見させてくれました。

どろりと深い鼈甲色をしていて、濃厚なメープルシロップのよう。

そっとひとなめ・・・「あ、甘~い、物凄く濃厚だけど、物凄く上品な甘さ」。

「ね?甘いけれど、すっきりしていますよね。

この純粋なサトウキビだけの糖分が香り高いお酒に変身していくんです」。

天国のような甘さをお酒に変える魔法を思いつくなんて

人間って、凄いなぁ。

濃厚で甘いサトウキビシロップは

大きな蒸留タンクに移されて、3度の蒸留を繰り返し、

安定したアルコール度数になった2番目の蒸留部分を

商品となるラム酒としてスチールタンクとオーク樽に分けて熟成させます。

スチールタンクで寝かせたものが透明な「イエラム クリスタル 」。

オーク樽に寝かせて2年間熟成させたものが「イエラム  ゴールド」として

出荷されていくのでした。

さて、大きなスチールタンクがでんと居座るお隣が秘密のお部屋。

「さあ、どうぞ、ラム酒がすやすや眠っています」。

おおお~、これは圧巻。

年月を経た風合いのあるオーク樽がずらりと年代ごとに横たわっていました。

「立派な樽、風格がありますねぇ~」と嘆息する私に浅香さんから驚きの一言が。

「実はこのオーク樽、

すべて余市のニッカウィスキーから譲り受けたものなんですよ」。

「え、ええ~っ、北海道の余市?ニッカ?マッサンとこから~っ(笑)!?」

まさに旅は発見の連続。知らなかったぁ~、

沖縄の伊江島と北海道がこんな素敵なご縁で結ばれていたとは。

意外な場所で意外な「マッサン」効果?

余市の蒸留所で長年ウィスキーを寝かせていたオーク樽たちは

南のサトウキビの島で香り高いラム酒の揺りかごとして

第2の人生をしっかり現役で働いていました。

道産子として嬉しいし、何だかちょっと誇らしい気分。

樽の表面には仕込んだ年月日と容量と樽の番号が白地で刻印されています。

「これはT1。最初に出荷した処女作の樽です。樽ごとに容量が違うでしょう。

工業製品ではない木の樽だからまちまちなんですよね」。

ラム酒を抱く樽のサイズもそれぞれ違う。

何だかすべてが人間らしくていいなぁ。

美しいオーク樽が並ぶ前で浅香さんが教えてくれました。

「『天使の分け前』ってありますよね。

お酒を熟成させていくうちに自然に揮発して減ってしまう分のこと」

「ああ、聞いたことあります、『エンジェル・シェア』とも言いますよねぇ」

「そうそう、普通スコッチウィスキーなどの場合、

年間3%から5%くらいなんですが、

この伊江島には、どうやら大酒飲みの天使がいるみたいなんですよ」

「大酒飲みの天使?」

「はい、この樽から年間1割も減ってしまうんです」。

ひょえ~、飲みすぎだっつーの、伊江島の天使さん(笑)。

伊江島蒸留所では島の気候に合わせて製品の貯蔵を行っているため、

南国の暑さから、どんどん天使の分け前がかさんでいくのでありました。

それだけ熟成も早く進むため、通常2年で出荷をしていますが、

当然、生産量も限られてくるために

伊江島の天使たちがイエラムの希少性を更に高めているとも言えそうです。

「エンジェルシェアで年間1割減るってことは、

『8年物のイエラム』なんてありえないってっことなんですよね。

どこかで万が一見かけても、理論上は存在しませんので(笑)」。

うふふ、ヴィンテージ詐欺には気をつけましょう(笑)。

ピーナッツの形をした小さな島で生まれた

香り高いサトウキビのお酒「イエラム サンタマリア」。

美しい上品な琥珀色は余市から運ばれたオーク樽の色が染みだしたもの。

島のシンボル「タッチュー」と聖母マリアの花をあしらったシンボルマークは

どこかアイヌ文様に似ているようで不思議なご縁をさらに感じます。

南の島と北の大地の偶然のマリアージュ。

素敵で美味しい奇跡の物語に出会った。

伊江島ワンディトリップ。

これだから、旅は、やめられない。

(写真は)

「T1」のイエラムが入っていたオーク樽。

2011年3月30日に樽入れされた時は259ℓだったけど・・・

大酒飲みの天使がずいぶんと試飲しちゃったらしく、

出荷当時は樽の6割くらいに減ってたそうです(笑)。

この「T1」と現在のイエラムの原点となった「T9」は

特別にブレンドせずに単一樽からのシングルカスクとして出荷、

現在ではほぼ入手不可能なプレミア&レアなスペシャルラム。

天使もついつい飲みすぎちゃうくらいのラムだもんね(笑)。

さすが、沖縄の天使は、お酒が強い。