ナベブチとムジヌフ

夏の沖縄旅4日目はぐるり伊江島を半日ドライブ。

本部港からレンタカーごとフェリーに乗りこみ30分。

沖縄本島から気軽に日帰り旅ができるご近所楽園の離島に到着。

島のシンボル「城山(ぐすくやま)」や美しいビーチ、

幻想的なニャティヤ洞に荒々しい断崖が続く海岸「湧出(わじぃ)」などなど

周囲22キロの小さな島では

実に豊かな風景に出会うことができます。

ほとんど平坦な伊江島は

空から見ると可愛いピーナッツのような形をしています。

水はけの良い島の土を利用して作られるピーナッツ(じーまみ)は

確か、この島の特産物だったはず。

な~んてことを考えながらハンドルを握り、集落のあるあたりに差しかかった時、

「ピーナッツ黒糖」の看板を掲げた製菓店を発見。

どうやら直売店も兼ねた小さな製造工場のようです。

入り口のガラスには「ピーナッツ菓子売ります」と手書きの文字も。

地元の製造工場好きの私(笑)、早速車を止めて、中へ。

「ごめんくださぁ~い」。

入り口近くの空間には出荷を待つピーナッツ菓子が積まれ、

その奥の方が製菓工場らしく、機械が見えますが、しんと静か。

「・・・あのぉ、ごめんくださ~い・・・」。

ふたたび声をかけるも音沙汰がない。しかし入り口は開いている。

どうしたものかと、所在なく積まれている「ピーナッツ黒糖」の袋を手に取り、

ふと何気なく裏を見ると、原材料のピーナッツはどうやら輸入品のよう。

ふ~む、たくさんの量を作るからかしら・・・。

そのとき、ようやく2階から人影とともに小さな声が。

「はい~、いらっしゃい~」。

この老舗らしい製菓所の奥さんでしょうか、

小柄なおばあちゃんがゆっくりと階段を降りてきました。

「あのぉ、伊江島でできたピーナッツのお菓子はありますか?」。

不意の質問だったのか、おばあちゃんは一瞬の間を置いて答えました。

「昔はね、島でいっぱい作っていたさぁ、じーまみ。

今はね、ピーナッツ畑は、み~んな、たばこぉ、はなぁ、牛のえさぁ」。

なるほど。

小さな平坦な島の基幹産業である農業も

収益性やコストや労働力の確保などさまざまな要因から

時代とともにその主要作物も移り変わってきたということですね。

製菓工場のおばあさんの一言には島の農業の変遷が凝縮されていました。

城山から見下ろした島の田園風景を成しているのは

収益性の高い葉タバコや菊を中心とした切り花類、

そしてブランド牛として高い評価を受けている伊江島牛のための牧草。

これらが今の伊江島の経済を牽引しているようです。

しかし、水はけの良い島の土に合う作物、

島らっきょうや紅いもは今も特産品だし、

そしてじーまみも数は少ないながらも作られているとか。

特に最近注目されているのが伊江島の小麦。

ピーナッツ菓子のそばにちょこんと小さな袋が置かれていました。

「伊江島産 ムジヌフ」。

「これは、伊江島の小麦ですか?」

「そうそう、ウチの娘が加工して作っているの」。

おばあさんが嬉しそうに晴れやかな笑顔で教えてくれます。

製造元はここの製菓所、現材料は伊江島産小麦、

添加物は「一切使用しておりません」という全粒粉。

のどかな伊江島ですくすく育った小麦の元気な表皮が

茶色の小さな粒々になって混じっています。

う~ん、健やかな小麦粉だ。とびっきり美味しいパンが焼けそうだ。

実は伊江島産の小麦粉は沖縄県内でもかなり注目されていて

こだわりのパン屋さん垂涎の材料となっているのです。

しかもここの娘さんが手ずから加工した自家製粉ときています。

迷わず「これ、下さい!」。

ん?そのムジヌフのお隣に見慣れない形をした黒い物体が。

1.5cmほどの分厚い板状で、しかも微妙に湾曲しています。

見た目は・・・黒糖っぽいんだけど・・・。

「ああ、これ?これは、ナベブチ」

「ナベブチ?」「そ、おっきな鍋で黒糖煮詰めてぇ、その縁にできるとこ」。

「つまり、鍋のふちってこと?」「そ、ナベブチ」。

何と直球なネーミングでありましょうか。

グツグツグツグツ・・・大きな鍋でサトウキビの搾り汁を煮詰める黒糖作り。

その時に鍋の縁に残る濃厚な部分が「ナベブチ」。

メインの黒糖に比べて少ししか取れないので希少とか。

島のでっかな鍋のカーブそのままの形が妙に懐かしい。

自然なオフホワイトの「ムジヌフ」と

昔懐かしいカーブが面白い「ナベブチ」と二つ合わせたら、

伊江島の香りと美味しさが詰まったジョートーなパンができそうだ。

「じゃあ、このナベブチとムジヌフ、両方下さいな」。

「はい、ありがとうございます」。

最初はやや不審そうだった(笑)おばあさんも満面の笑顔に。

昔ながらの「ナベブチ」と沖縄ブーランジェリー注目の「ムジヌフ」。

伊江島で今も昔も愛される恵みに出会うことができました。

島の人と交わす言葉が最大で最新の情報源。

これだから、旅はやめられない。

さあ、ざわわざわわ揺れるサトウキビ畑を抜けて、

伊江島探訪のメインイベント、

サンタマリアのお酒の故郷へ向かいましょう。

小さな島は立ち寄りスポットが満載。

ああ、忙しい(笑)。

(写真は)

島の製菓所で出会った

「ナベブチ」と「ムジヌフ」。

ユニークな名前とともに

島で長く愛されていました。