詩人の街の一皿
近頃、私は夏イカ症候群だ。
ぴっかぴかの旬のイカを見ると買わずにいられない。
道南函館産のこぶりのイカは鮮度抜群、
「わたしを南仏に連れてって」とイカが囁いている。
決めた、今回はあの一皿に仕立てましょう。
毎年、夏イカが美味しくなると作りたくなる我が家の定番料理、
「イカのセート風煮込み」であります。
セートとは南フランスのラングドック=ルーション地方にある街。
17世紀にミディ運河の地中海側の出口として埋め立てられた湿地帯にあり、
マルセイユに次ぐ規模の港町として知られています。
海に浮かぶような細長い土地にある街の様子から
「ラングドックのベネチア」とも呼ばれています。
この街の名物料理が「イカの煮込み」。
その名は「Calmal a la setoise(カルマール・ア・ラ・セトワーズ」。
新鮮なイカをトマト風味で煮込み、
南仏独特の調味料アイオリソースを使った日本人好みの一品。
我が家では函館産の夏イカが充分に美味しいので、
濃厚なアイオリソースなしで仕上げるのが定番。
作り方は簡単、お味は複雑で極上、
夏の週末ランチなどにもおすすめのお料理です。
オリーブオイルでタマネギ、(好みでにんにくも)を炒め、
別のフライパンでイカを炒めたら、取り出して、
そこに白ワインを注いで鍋肌の旨みをこそげとって、タマネギの鍋に移したら、
ローリエ、カレー粉、ガラムマサラ、クミンなどのスパイスを加え、
完熟トマト、イカを戻しいれ20分ほど煮込めば出来上がり。
ズッキーニやナス、パプリカなどの夏野菜を
オリーブオイルでソテーしたものをトッピングして盛り付けると
カラフルで華やかな南仏の名物魚介料理の完成。
トマトとイカの濃厚な旨みが絶妙にマッチ、夏がぎゅっと凝縮されている。
旬の夏野菜を濃いルビー色のソースにからめて食べるともう最高。
フランスパンはもちろん、白いご飯や玄米にも良く合って、
お箸が、スプーンが止まらない。
旬の美味しさがたっぷり詰まって、どこか懐かしい味がする。
そう、これは、南仏版イカ大根(笑)。
セートのおふくろの味、なんじゃないだろうか。
濃厚の美味さの背後からほのかに立ちのぼるスパイスの香りが
地中海をはさんでアフリカ大陸に接する南仏の空気を物語ります。
馴染みやすくて、懐かしくて、それでいてエキゾチック。
食卓のイカの煮込みに舌鼓を打っていると
行ったこともないセートの美しい街並みが目に浮かぶよう。
南仏のベネチアとも呼ばれる港町は
詩人ポール・ヴァレリーの故郷でもあります。
フランスを代表する知性と言われる詩人も
ママのイカの煮込みが大好きだったのかなぁなんて想像したり。
「恋愛とは二人で愚かになることだ」
恋の本質を喝破した名言を残した詩人は
女性たちにも鋭い警句を残しています。
「香水をつけない女に未来はない」。
ドキッ、やばい・・・近頃、さぼっていたかも(笑)。
まだまだ女のはしくれとして未来は閉ざされたくない。
イカのセート風煮込みをつつきながら、
女としての反省しごくの夏のランチでありました。
ポール・ヴァレリー、人生も女にも厳しいね~。
(写真は)
北海道の夏イカを南仏風にアレンジ。
お魚苦手な子供たちも
バターライスなど添えてあげると
きっとパクパク食べてくれると思いますよ~。
もちろん、冷えたワイン、ビールとのマリアージュは完璧。
大人も子供も大好きな
詩人の街の一皿。

