山と暮らす

火山島は生きている。

昨日午前9時59分に起きた口永良部島の爆発的噴火。

テレビ画面に映し出された噴煙は高さ9千mまであがり、

地球が秘めたすさまじいエネルギーに圧倒されるばかりでした。

南国の美しい青空がみるみるうちに真っ黒な噴煙に覆われる。

「早く!早く!乗って!」

空に向けられていた画像が激しく揺れ、その端に車のウィンドウが映り込む。

取るもののとりあえず避難する瞬間の映像だ。

撮影者の緊迫状態が伝わってくる。

今朝のニュースで観たその画像は

島の中学2年生、13歳の少年が動画カメラで撮影したものらしい。

島の穏やかな日常が山の噴火によっていきなり破られる様子が

画像とともにその音声からも生々しく伝わってきます。

「洗濯物、洗濯物が・・・」というお母さんらしき女性の声に

「洗濯物なんてどーでもいいでしょっ、噴火したんだから!」と

少年の切迫した声が続いていました。

カメラはまるで地獄からの使者のように

空をなめ尽くそうとする黒い噴煙を捉え続ける。

再び少年の声。「これ、やばいって・・・。大変だ」。

よく晴れた金曜日の朝。

お母さんはいつも通り、家族の洗濯物を張りきって外に干したのでしょう。

お父さんのシャツ、少年の部活着に短パン、お母さんのブラウス・・・。

南国のお日さまに照らされて気持ちよく乾くはずだった洗濯物は

今もそのまま、不気味な火山活動を続ける島に残されたままなのです。

幸い全島民の島外避難は大きなけが人もなく無事済んだようですが、

お母さんが直前まで気にしていた洗濯物が

再び取りこまれるのは一体いつの日になることでしょう。

5・29は火山島に暮らす人々の不安な日々の始まりでありました。

北海道も有珠山噴火を経験しています。

火山と暮らすということは自然の恩恵とリスク、両方を引き受けること。

その厳しい現実は他人事ではありません。

自然への畏怖と愛着とともに生きてきた島の人々の今の気持ちを思うと、

山よ、一日も早く静まれと祈るばかりです。

避難用のフェリーに乗り込む小さな女の子が抱えた黄色いヘルメットの中には

白黒模様の仔猫がうずくまっていました。

猫ちゃんと一緒に島に戻れる日が一日も早く訪れますように。

それにしても、一刻を争う避難の最中、

いわば命の瀬戸際にあって「洗濯物が」と呟くお母さんの言葉には

女性として理屈では説明できない同じ身体感覚を感じました。

もし自分も食事の支度の真っ最中とかに同じ場面に遭遇したら、

財布や保険証や貴重品をトートバッグに放り込みながらも

「あ~、下味つけたばっかりのから揚げの鶏肉が」とか

「三枚下ろしした鯖、冷蔵庫入れなきゃ」とか口走りそうな気がする。

鶏肉や鯖の行方は命には関わりないことなのに、

女にとって「暮らしの断片」がもぎとられていくことは物凄く辛いのだ。

いや女性だけじゃない。

畑や漁船や役場や商店や小さな学校や・・・。

島の人々はそれぞれの大切な「暮らし」を引きちぎるようにして

避難のフェリーに乗りこんだのだ。

山と暮らす。覚悟はしていたリスクかもしれませんが、その試練は厳しい。

遠い北の地から、祈ることしかできない自分がもどかしいけど、

何度も思う。

山よ、静まれ。

(写真は)

ご近所のお庭に咲く可憐な青い花。

控えめな小花は山野草を思わせる。

美しい景観、緑や花々、動植物を育み

豊富な温泉さえも与えてくれる。

火山列島、日本に暮らすということ。

口永良部島の5・29、他人事ではありません。