梅と桜と雷と

どんよりと薄暗い空が重たげな朝。

キッチンでコーヒーを淹れていたら、ドドォ~ン!

頭上の換気扇を通して突然大きな音が聞こえました。

なに?雷?

リビングの窓へ目を転じた瞬間、ザザーッ!

横なぐりの風ととも激しい雨が降り出してきました。

春雷ね・・・。

雷は1年中鳴りますが、

春のこの時期に鳴る雷を「春雷」と呼びます。

不思議ですね。

夏雷とも秋雷とも冬雷とも言わないのに。

それだけ春は特別な季節、待ち焦がれていたということでしょうか。

春は寒気と暖気が接触して雷が発生しやすい季節、

その年に初めて鳴る雷は「初雷」、

「啓蟄」の頃は「虫出雷(むしだしかみなり)」、

そして立春以降の雷は「春雷」。

大きな音や突然降りだす雹などに驚かされることの多いこの時期の雷、

気象用語的には「界雷」とか「前線雷」と呼ばれるそうですが、

古の人々はそれぞれに季節感あふれる名前をつけてきたのですね。

その繊細な感性にリスペクト。

その昔、宮中には臨時の警固のための「雷の陣」が設けられたり、

「梅の花が下向きに咲く年は雷が多い」などという言い伝えも

大和・奈良地方あたりに残っているそうです。

「今年は春雷多そうだから、ちょっと下向いて咲いておきましょか」ってこと?

可憐な梅の花には最新の気象衛星に負けないセンサーが

備わっているのかもしれませんね。

まだ固いつぼみの北海道の梅の花、ほころびはじめたら、

花の咲き加減をよ~く観察してみましょう。

心は明るい春にむかっているのに、

一瞬、空を薄暗くし、大きな雷鳴と激しい雨、時には雹を降らす春雷は

どこか陰影を深く刻んだ心象風景と重なります。

水原秋桜子のこんな一句を見つけました。

「春雷や 暗き廚の 桜鯛」

春を告げる雷鳴には

どこか人を一瞬闇に引きずりこむような魔力があります。

その春雷が過ぎ去った後の静けさのなか、

昼なお暗い台所に鮮やかな春色の桜鯛がしんと横たわっている。

永遠と続く生と死の輪廻の瞬間をすっぱりきりとったような

鋭い観察眼にぎくりとしました。

モノトーンの背景にたった一点、桜色に輝く鯛の妖艶さよ。

な~んて、かなり勝手な野宮的解釈ではありますが、

俳句は本当に絵画的で、時にエロティックですらあります。

朝のキッチンを一瞬暗くした春雷がもたらした激しい雨は

まだまだやむ気配はなく、

横風は残雪残る山肌をなぶるかのように吹き続けています。

こんな金曜日には、私も俳人になれそうな気もしてくる(笑)。

春雷や 暗き居間での 桜餅・・・

秋桜子さん、す、すんまっせん。

(写真は)

遠いジャンプ台にかすかに残る冬の名残。

春雷が桜のつぼみを起こしてくれたかしら。

春の雷にもの思う金曜日、うふふ。