帰る理由

「渡名喜島」。

大好きな島の名前を朝刊の紙面で見つけました。

沖縄本島から60キロ離れた人口400人の小さな離島に

月に10日間だけ開く美容室のお話でした。

赤瓦の古民家の集落が今も奇跡的に残る美しい島。

真っ白い砂が敷き詰められた清々しい小道は

毎朝、島の子供たちによって掃き清められていました。

フェリーの時間上、那覇から日帰りできないこともあってか、

ほとんど観光地化されていない渡名喜島は

いわば素顔のままの稀有な離島と言ってよいかもしれません。

2年前の一人旅で訪れて以来、心の中の宝物の島です。

こののどかで美しい渡名喜島に7年前、一人の男性が旅しました。

茨城で美容室を経営していたその人は島の魅力に触れ、すっかり虜に。

次回はハサミを持って再訪、屋外で新聞を広げて

散髪屋のない島の子供たちの髪を切ってあげました。

そして翌年には一軒の古民家を借りて「島の美よう室」を開いたのです。

6畳2間にシャンプー台と椅子1台だけの島で唯一の美容室。

毎月、島に通って10日間開くその店のおかげで

島の人は船に乗って那覇まで髪を切りにいく不便から解放されました。

へぇ~、あの赤瓦のどれかが、島の美容室だったのね~。

気がつかなかったなぁ~。それもしようがない。

だって、渡名喜島は魚屋さんも商店もほとんど看板がないんだもの。

ほぼ見た目は普通の民家、だいたい通り過ぎそうになってしまう。

ガラス戸の向こうにパンやら食品やらが見えたり、

ガラス窓に控えめに魚の絵が書いてあったりするのを見て

初めて、「あ、魚屋さんだったんだ、商店だったんだ」って気づくのです。

人口400人ほどの小さな島では島民みんながほぼ顔見知り、

どこの家で何の商いをしているかは周知の事実ですから、

大きな看板なんていらないのです。

渡名喜島でただ一軒の美容室も、きっとデカイ看板など必要なく、

島の人みんなの素敵な居場所になっているのでしょうね~。

美容室を開いた福田隆俊さんは、毎月、島へ通うたびに

「お帰り」と声をかけられるそうです。悪天候で通えないときなどは

「パーマがすぐほどけてしまう」おばぁのことなどが心配になるとも。

福田さんも、渡名喜の魔法にかかった一人なのですね。

観光名所やお洒落なカフェやディープな居酒屋もないけれど、

一度訪れたら、魂の後ろ髪を引かれてしまうような不思議な魅力が

この島にあるような気がします。

初めて来たのに、何だか生まれる前から知っているような

そんな大きな安心感に包まれるのです。

ふと、赤瓦の民宿で働いていた高橋さんの言葉が蘇ってきます。

埼玉出身の彼も渡名喜の「なんもない魅力」に取りつかれて、

旅人から島の住人になった一人。

「高橋さんはもう埼玉には戻らないんですか?」と聞いた私に

彼はこう答えた。「うん・・・帰る理由がないんだよね・・・」。

帰る理由がない。

それは、いつしか渡名喜が彼の故郷になっているってことなんだろう。

ここで「生きる理由」ができ始めてるってことなんじゃないだろうか。

茨城から島の美容室に通う福田さんを「お帰り」と迎えてくれる島の人々。

福田さんには渡名喜に「帰る理由」があるってことなんだろうなぁ。

小さな島の民家の美容室は写真集にもなっているようです。

パーマをかける90歳のおばぁ、真っ黒に日焼けした漁師のおじぃ、

春には島を離れて高校へと進学する中学生たち・・・

いつしか島の人の憩いの場となった島の美容室は

渡名喜島の大切な「浮世床」。

赤瓦の古民家で島の人の浮世話をBGMに

髪を切ってもらうのも悪くないなぁ。

渡名喜島・・・また行きたくなっちゃったなぁ。

美しいあの島へ

「行きたい理由」がいっぱいある。

(写真は)

渡名喜島の赤瓦の民宿のお昼ごはん。

盛りのいいの麩チャンプルーを

哲学者のような高橋さんが運んできてくれたっけ。

うりずんの島の春風の心地よさを思い出すなぁ。

ああ、島に行きたい病が再発しそう(笑)。

のどかな南風がおいでおいでと呼んでいる~。