奇妙で小さな罪深さ

何度観ても味わい深い映画があります。

いやいや、何度観ても美味しい映画というべきか。

やっぱり、名画だな~、「バベットの晩餐会」。

先日BSで放送していたのを録画しておいたのですが、

週末の夜、ひとり赤ワインを傾けながら観賞するには最高の一本。

1987年公開のデンマーク映画で88年にはアカデミー外国語映画賞を獲得、

アイザック・ディネーセンの同名小説を映画化した作品の舞台は

19世紀後半のデンマークの辺境の漁村。

プロテスタントの村人たちが質素な生活を送っているその寒村に

カトリックの国フランスからワケありの一人の女性がやってきます。

そして開かれたある晩餐会とは・・・。

「海亀のコンソメスープ」、「ブリニのデミドフ風」、

「ウズラとフォアグラのパイ詰め石棺風 黒トリュフソース」etc。

パリ・コミューンにより家族を亡くした天才料理人バベットが

宝くじに当たった1万フランをつぎ込んで作った本物のフランス料理が圧巻。

何度も観た映像ですが、何度観ても陶然となってしまいます。

料理はもちろん、合わせるお酒がまた素晴らしい。

アペリティフのシェリーはアモンティリャード、

シャンパンは1860年のヴーヴ・クリコ、

ウズラに合わせた赤ワインはクロ・ヴージョの1845年物。

ワインに対する造詣も蘊蓄もさっぱりありませんが、

すんばらしく美味しいことだけは登場人物たちの表情を見れば一目瞭然。

手元のチリのテーブルワインがクロ・ヴージョとやらに思えてくるから

バベットはやはり魔法使いかもしれない(笑)。

バベットの一世一代の料理と完璧なお酒とのマリアージュ、

美しい食器にグラスにカトラリー、洗練されたテーブルセッティング、

天国にも昇った気分にさせる晩餐会の一番の秘薬は、「禁欲」。

信仰に忠実で頑な村人たちは「味わう」ことを拒否しようと話し合い、

食べ物のことも味のことも一切考えないようにしようと食卓につきますが、

我慢すればするほど美味しさに負けてしまいそうになる。

「美味しい」と言いたいのに「明日は一日雪だろう」と誤魔化すのだ。

バベットは最後のスパイス「禁欲」まで計算して作っていたのだろうか。

「舌という奇妙で小さな筋肉は人間にとって大きな役割を果たしている」

村人の一人が耐えかねたように語る台詞が印象的です。

もう充分に、その奇妙で小さな筋肉は「美味しい」と悶えているのに

彼女は必死で続ける。「舌を使うのはお祈りと感謝を表す時だけよ」。

しかしバベットの料理は容赦なく、彼らの舌を喜ばせていくのです。

ああ・・・ハレルヤ。

美味しい食事は神の祝福だった。

次第にほころんでいく村人たちの笑顔がそれを物語っているのでした。

そうかぁ、

なかなか冬場に増えた体重が戻らないのは

舌という奇妙で小さな筋肉のせいだったのね~。

頑な我慢や禁欲では御しきれない大きな役割をもった小さな筋肉。

それは人間に生きる喜びを実感させてくれる、実に困った筋肉。

バベットの晩餐会の翌朝、

村人たちの体重は一体どれだけ増えたのだろうか。

映画にも原作にも書いていない「その後」が気にかかる(笑)。

(写真は)

出張土産シリーズ、今週末は函館編。

創業万延元年の老舗、「千秋庵総本家」の「小萩饅頭」。

ほのかに香る柚子の香りが絶品。

地元では「柚子饅頭」として親しまれ、

元々は秋にしか作っていなかったらしい。

春を待ちながら、夜中に小萩饅頭をぱくつく。

ああ・・・舌という奇妙で小さな罪深き筋肉よ。