おせったい豆
煮豆のようで煮豆でない、
佃煮のようで佃煮でもない、
これこそ四国は讃岐にしかないあのお豆であはりませんか。
大好きな「しょうゆ豆」。
真冬の知床旅から香川の自宅に無事に戻った旅友R子ちゃんから
昨日、届いた郵便物の中身に大感激。
札幌でごはんを食べながら、讃岐話で盛り上がり、
「しょうゆ豆、美味しいよね~、こっちには売ってないんだよね~」と
言ったことを覚えていてくれたのですね~。
催促したみたいで恐縮恐縮、でも、ほんと嬉しい、久しぶりの対面です。
わざわざ送ってくれて、ありがとうございました。
その昔、テレビの取材で訪れた香川ではじめて出会った「しょうゆ豆」。
見るのも聞くのも、もちろん食べるのも初めて。
濃い醤油色に染まったお豆は見た目ほどしょっぱくはなく、
やさしい甘さと醤油の風味が香り立ち、ほど良い歯ごたえがあって、
軽くかむと口の中にぽろっとくだけていく食感がたまりません。
その「おつ」なお味がしっかりと記憶に残りました。
香川のお土産屋さんでは必ず見かけた讃岐名物ですが、
北海道で出会うことはまずなく、「幻の味」となっておりました。
これはこれは、実に久しぶりの再会であります。
「しょうゆ豆」はそら豆を香ばしく炒って、
醤油や砂糖などで作ったタレに浸け込んで味つけた讃岐の郷土料理。
昔ほど各家庭で作られることは減ってきたそうですが、
今でもやはり食卓には欠かせない故郷の一品として親しまれているそうです。
その煮豆とも佃煮とも違う独特の風味を持つ「しょうゆ豆」には
四国らしい素敵な誕生物語がありました。
弘法大師の生誕地であり八十八か所の霊場を巡るお遍路さんで知られる四国、
この「しょうゆ豆」にもお遍路さんにまつわる言い伝えがあるのです。
その昔、お遍路さんに接待しようと、
あるお婆さんが焙烙でそら豆を炒っていたところ、
ビーンビーンと音をたててはぜた豆がたまたま醤油の鉢の中に飛び込み、
しばらくしてその豆を口にしてみると、
あ~ら、意外に柔らかく、しょうゆの味が染みて、これは何とも美味しい♪
「しょうゆ豆」はそんな偶然から生まれた郷土食でした。
四国ではお遍路さんは「お大師様と同じ」として、
道中で果物やお菓子、路銀などを手渡す風習が根づいています。
それは「お接待」と呼ばれる温かなおもてなしの心。
偶然出会った道すがらのお遍路さんに差し上げる「お接待」もあれば、
自分の家に泊めて食事を供する「善根宿」や休憩のための接待所など
そのかたちは様々ですが、現代に残された優しい奇跡にも思えます。
時には悲しい別れをした人が亡き人の供養のために
お餅やふかしたお芋をお遍路さんに差し上げる光景などもあるそうです。
行き暮れた旅人や修行に励む人々に手を差し伸べる「お接待」。
それは自然で素朴な助け合いの心であり、
自分のかわりに苦難の道を歩くお遍路さんはお大師さまの化身、
「お接待」はお大師さまへのお布施でもあります。
あなたのためであり、わたしのためであり、お互いの幸せのため、
みんなが温かく優しい気持ちになれる素敵な習慣なのですね。
優しい甘さと醤油味が絶妙な「しょうゆ豆」は日持ちもし、
糖分と塩分と植物性たんぱく質が美味しく手軽にとれ、
厳しいお遍路の道中にあっては貴重な栄養源でもあります。
殻ごと炒ったそら豆の皮の硬さや豆の軽い歯ごたえは
「さあ、もう一歩!」とお遍路さんの背中をそっと押しているかよう。
明日への一歩を踏み出すために偶然生まれた「しょうゆ豆」。
それは四国が誇る「おせったい豆」。
お遍路道を歩きながらつまむのが
きっと、一番、美味しい食べ方かもしれません。
いつか、行ってみたいな。
(写真は)
讃岐の名物「しょうゆ豆」。
おやつにも箸休めにもお弁当にもいいけれど、
赤ワインとも実に良き相性。
お遍路道を想像しながらワインを傾け、しょうゆ豆を摘む。
お大師さま、すみません・・・。

