きれいな人

33度目の優勝。

その高みからはどんな景色が広がっているのだろか。

そこは隣に並び立つ者など誰もいない場所。

強くなるということは、孤独を引き受けるということでもあるのか。

大記録を成し遂げた横綱にしかわからない境地、

凡人はただ想像するしかない。

大相撲初場所13日目、

横綱白鵬が5場所連続、33度目の優勝を果たし、

昭和の大横綱大鵬の史上最多優勝記録を塗り替えました。

稀勢の里との結びの一番は取り直しになり、「楽ではなかった」と語った優勝。

15歳で来日したときは新弟子基準にさえ届かなかった

モンゴル生まれのやせっぽちの少年が歩んできたその道こそ、

まさに「楽ではなかった」孤高の道。

精進して、稽古して、たどりついたその場所は

角界の父と慕った大横綱大鵬さえ、見ることのなかった世界。

人々は「前人未到」「大鵬超え」などと勝手に表現しますが、

そこに立った者を待ちうける苦悩や重圧などは誰も想像もできない。

称賛することはできても、悩みや苦しみを分かち合うことなど誰もできない。

強くなるって、本当に孤独と引き替えなんだなと、思う。

「本当に、きれいなお相撲さんだね」。

その昔、相撲が大好きだった母方の祖母がテレビ中継を見ながら、

よく、こう呟いていました。

当時は大鵬の全盛期、その取り組みの度に同じセリフを繰り返すのです。

「ほら、肌もつやつやして、きれいな桜色に染まって、

本当にきれいなお相撲さんだ」。

まるでアイドルを眺めるように、うっとりしていたのを覚えています。

そうか~、お相撲さんって、ただ太ってるんじゃないんだ、

そうなんだ、きれいな男の人でもあるんだ。

幼いながら「お相撲さん」を観る尺度が広がったような気がします。

そんな原体験の割には

孫はあまり相撲には詳しくない大人になってしまいましたが、

白鵬の取り組みを見るたびに、祖母のセリフを思い出します。

色白の肌が相手のまわしを取り、土俵際にぐいぐい追い詰めていくにつれて

ふわぁ~っとそれは美しい桜色に上気していく様子は、

まさに「きれいなお相撲さん」。

押し倒しで33回目の優勝を決めた瞬間も

力強く踏み出した右足と充分に伸びた左足のバランスが実に美しい。

背中と伸ばした左足のラインがそれはきれいに同じように真っ直ぐ伸びていて、

まるでバレエダンサーのようなしなやかさだ。

勝負が決まった瞬間の構図の美しさは

怪我をしない柔らかい上半身と強靭な下半身、

そして体の要である股関節の可動域がはんぱなく広いことを物語ります。

強いということは、美しいってことでもあるんだ。

大鵬好きだった祖母はとっくに天国に行っちゃったけど、

おばあちゃん、平成の世にも「きれいなお相撲さん」がいるよ。

大鵬の記録超えちゃったよ、どこまで強くなっちゃうのかな?

天国のテレビでも大相撲中継、観てる?

おばあちゃん。

(写真は)

あれ?昭和にタイムスリップ?

白黒テレビが大相撲中継していそうな佇まい、ですが、

時は平成、場所は那覇の浮島通りの一角。

ウチのご近所にもあるなぁ、昭和レトロな今どき酒場。

巨人、大鵬、卵焼きかぁ。

おばあちゃんの卵焼きって食べたことあったかなぁ。

巨人ファンだったっけなぁ。

昭和は、遠くなりにけり。