家族の和音

「これまでの人生、

私はずっと誰かの娘で、誰かの妻で、誰かの母親だった。

だから残りの人生は、私として生きたいの」。

ミセス・パルフリー、あなたは多くの女性の代弁者です。

あなたに出会えて、良かった。

映画「クレアモントホテル」。

2005年に公開されたアメリカ・イギリス合作映画で

原題は「MRS’PALFREY AT THE CLAREMONT」。

先日、BSで放送していたのを録画していたのですが、

実に味わい深い、忘れられない一本となりました。

主人公、サラ・パルフリーを演じるのは名優ローレンス・オリヴィエ夫人であり、

イギリスを代表する女優、ジョーン・プロウライト。

孤独な老婦人を気品あふれる佇まいで演じていて本当に素敵でした。

若くして最愛の夫に先立たれ、

しかし自分の老後を案じる娘の干渉からも自立したいと

スコットランドから一人、

ロンドンの長期滞在型のホテルにやってきたミセス・パルフリー。

「自分の老後は自分が決める」。

冒頭の台詞にはそんな彼女の思いが凝縮されています。

期待を込めてやってきた「クレアモントホテル」は古びていて、食事もいまいち、

ホテルの先客たちは新顔の彼女に興味津津。

ちょっと理想とは違ったけど、持ち前の自立心とユーモアと包容力で

それなりに充実したロンドン暮らしを送っていました。

いや、送っているつもりでした。

私は私として残りの人生を生きたい、・・・けど、

ロンドンに暮らす孫息子には一応、電話を入れておく。

「おばあちゃんよ。クレアモントホテルにいるの。

良かったら食事に来ないかしら。電話を待っているわ」。

慣れない留守電に必死で伝言を残すミセス・パルフリー。

しかし、孫息子からは、一向に電話はかかってこない。

ホテルの客たちにとって、滞在客にかかってくる電話は最大の関心事。

「なしのつぶて」の言いわけにも尽きた頃、

散歩の途中である青年と偶然に知り合い、物語が展開していきます。

娘や孫とうまく理解し合えない老婦人と

母親とどうしてもうまくいかない青年(これが、めっちゃイケメン!)が

いつしか疑似家族のように心を通わせていく様子は

ほのぼのとした温もりに満ちていながら

時に恋愛映画を見るような、ちょっとしたドキドキ感もあって、

ぐいぐいと「クレモントホテル」の世界に引き込まれていきます。

二人がロンドンの公園のベンチに座って語らう場面。

お金のない作家志望の青年ルードは

穴だらけのジーンズに着古したセーターにストライプのニットストール、

ミセス・パルフリーは何年も大切に着続けただろう上質なベージュのコートに

黒い皮手袋、そしてきれいなピンク色のストールを巻いています。

服装のテイストは全然違うのに、画面全体が見事に調和。

生まれた場所も時代も環境も、全く違う二人だけど、

簡単に言ってしまえば「赤の他人」の二人だけれど、

冬の公園のベンチに並んだその姿からは美しい和音が聞えてくるよう。

お互いの孤独を理解し合った二人が奏でる、そう、家族の和音。

血のつながりだけが家族じゃない、

魂でつながる、そんな家族もあるんだな。

どんなにヤセ我慢していても、

人は一人じゃ、寂しすぎるってことだな。

めんどくさいことに、その寂しさを人に気づかれるのがとっても怖くて、

だったら、いっそ、誰とも関わらないなんて突っ張っていても、

人は、いつも、自分をわかってくれる誰かを求めているんだよね。

映画の前半、

一向に電話をかけてこない孫息子にしびれを切らし、

ミセス・パルフリーは孫息子の母親である娘に手紙を書きます。

「文章は押しつけがましくなかったかしら。

寂しがっているように取られなかったかしら・・・」

ポストに手紙を投函した後で、ぐちょぐちょ思い悩む彼女の独白に

何だか胸が詰まりました。

実の娘に出した手紙の文面ひとつに、あれこれ気を病む老いた母の、寂しさ。

私も誰かの娘であり、

誰かの母親でもあるわけで。

家族というだけで

ホントの心をちゃんとわかってあげているのだろうか。

娘としても、母親としても、鼻の奥がツン・・・。

「クレアモントホテル」。

食堂のローストビーフは噛み切るのに難儀するけれど

ロンドンのひと冬、ロングステイしてみれば

人生で大切なことが見つかるかもしれません。

おばあちゃんになったら、いつか長期滞在してみようかな。

お気に入りのマーマレードを一瓶トランクに入れて。

(写真は)

那覇の「C&C BREAKFAST OKINAWA」ご自慢の

エッグベネディクト。

クレアモントホテルの朝食には

残念ながら出てこないだろうな~。

エッグベネディクトって、一皿に卵が2個が定番。

一人で平らげるにはボリュームが多すぎる。

旅の朝ごはん、誰かとシェアしたくなる瞬間かもね~。

できればハンサムな作家志望青年あたりと(笑)。