ゼロの黒ニット

冬の増毛の小さな居酒屋のカウンター。

寡黙な男と孤独な女が肩寄せ合い、

見るとはなしにつけっぱなしのテレビを眺めている。

画面から流れてくるのは八代亜紀の「舟唄」。

「あたし、この唄、好きなのよね・・・」。

男はただ黙ってそう呟く女のコップに酒をつぐ。

なんてセクシーなんだ、高倉健。

この週末は最後の銀幕スター、高倉健さんを偲び、

その出演作の放映が相次いでいますが、

昨夜、BSで放送していたのが「駅~STATION」、

若い頃と違って、この年になって観ると沁みますね~。

健さんはかつての腕利きの狙撃手で

現在は北海道警察の刑事部巡査部長という役柄。

道警にこんな渋カッコいい刑事さんがいるなんて知らなかった。

(って、映画でした、笑)。

彼と3人の女性の関わりを縦軸に物語は進んでいくのですが、

一番目の女性、妻役のいしだあゆみが

雪の中、列車の中から敬礼しながら別れを告げる場面は有名ですが、

昨夜は最後の女性、倍賞美津子演じる桐子さんとのシーンにぐっときました。

真冬の増毛、雄冬行きの船は時化で欠航、

故郷へ帰れなくなった男と帰る故郷のない女。

熱燗のコップ酒、イカと芋の煮っ転がしにBGMは八代亜紀・・・

公開当初に観た時は若気の至り、多分、辛気臭いな~なんて感じて

それであまり印象に残っていなかった場面ですが、

いや、これが、じんじん沁みましたね~。

熱燗も演歌も今でもあまり得意ではないのですが、

増毛の赤ちょうちんのカウンターに寄りそう健さんと桐子。

こういう場面を「寄るべない」と言うんだろうな~。

傍らのストーブの上に載せた薬缶からシュンシュンと湯気が湧きたち、

一歩外は凍れる真冬の夜がどこまでも広がるだけ。

だから人生の止まり木でそっと肩を寄せ合い、お互いの温もりを確かめる。

う~む・・・私も、健さんの映画が沁みるお年頃になれたようです。

年を重ねるのって、だから素敵だ。

それにしても、健さんほど黒のタートルネックが似合う男はいないと思う。

今どきのメンズファッション誌のどんなイケメンモデルでもかなわない。

それはハイゲージの小洒落たニットではなく、

ミドルゲージとローゲージの中間あたりのやや厚手の黒ニット。

ストールもハーフコートも黒か濃いネイビーで

間違ってもレオンおやじのように(笑)

明るい色の小物で「差し色」なんて小細工はしない。

じっと真っ直ぐに生きてきた強靭な肉体だけが唯一のアクセサリー。

演歌が流れる小さなテレビに目をやりながら、

自分に体を預ける女をそっと受け止めながら、

ほんのわずか前かがみになった黒ニットの背中。

何も足さず、何も引かず、ただこの道を生きていく。

プラスマイナスゼロの黒ニットを着こなせるのは

この人しかいない。

黒ニット。

誰でも似合いそうではありますが・・、

男の本性がむき出しになる

実は、恐いアイテムだと、思うよ。

うふふふふ・・・。

(写真は)

焼物の欠片が敷き詰められた小道。

那覇の壺屋やちむん通りの南ヌ窯にて。

壺にも皿にもなれなかった数々のかけら。

そうだ、失敗のかけらが人生の道を作るんだ。

黒ニットの似合いそうな小道だ。