さっぱりしたくつした

クリスマスまであとひと月。
遠い北の国ではそろそろサンタさんが
今年のお仕事の準備を始める頃でしょうか。
子供たちのプレゼントリクエストのチェックをしたり、
トナカイさんのコンディションを調整したり。
それとも「まだまだ、あとひと月あるわい」と
のんびりお昼寝を決め込んでいるかもしれませんね~。

本棚の奥に眠っていた1冊の絵本
レイモンド・ブリッグズ作の「さむがりやのサンタ」。
クリスマス絵本の傑作のひとつで
息子も小さな頃、大のお気に入りでした。
24日イブの朝、「やれやれ、またクリスマスか」と
めざまし時計に起こされてしぶしぶベッドから出てくるのは
真っ白なお髭に赤ら顔の太っちょサンタさん。
聖人のイメージとはかなり違う、
ゆる~い人間らしさが何とも魅力的。
懐かしい絵本を久しぶりに手に取ったのは
昨夜読んだ一編の短編小説がきっかけでした。

沢木耕太郎の短編小説集「あなたがいる場所」の
最後に収録されていた「クリスマス・プレゼント」。
12月のある日、亡き妻のことづてに従って
何組かの新品の下着を段ボール箱に詰める一人の老人。
中途半端なすき間を新聞紙で埋めようとした時、
ふと、その荷物が届くのがクリスマス、
妻がいつもこの時期に送っていた下着類は
クリスマスプレゼントだったのだと気づきます。
そして幼い息子が好きだったこの絵本を思いだすのでした。

「すすだらけになっちまった」
「えんとつなんてなけりゃいいのに」
プレゼントを配りながらあれこれこぼすサンタの口真似を
何度も何度も繰り返していた小さな息子。
思い出をたどりながら、
街の本屋で見つけた「さむがりやのサンタ」。
「お孫さんへの贈り物ですか?」「え、ええ・・・」。
クリスマス用の包装紙に緑のリボンがかけられた絵本と
絵が好きだった息子のために12色の色鉛筆を買い、
誰もいない家に戻り、また荷造りをする老人。
下着と絵本と色鉛筆を詰めた
拍子抜けするほど軽い荷物の宛先は
北国の刑務所でした。

彼の息子がどんな罪を犯したのか、
犯罪者の親となった夫婦がどんな日々を過ごしてきたのか。
小説にはほとんど書かれていません。
自分の下着さえ買ったことのない老人が
街に出て、慣れない買い物をする姿、
ぽつねんと段ボール箱を前に
荷物をどう詰めようかと思案する姿が淡々と丁寧に描かれ、
やがて蘇ったある思い出をきっかけに老人は悟るのでした。
「自分があの子に贈った何倍もの大きなもの、
あの子によってこうむった苦しみより何十倍も大きなものを

受け取っていたのだ」と。

そうなんだよね。
親は子供に精一杯に愛情を注いできたつもりだけど、
その何十倍もの大きな贈り物を
とっくに子供から受け取っているんだよね。
キミが生まれてきてくれたこと。
キミがこの世のどこかで生きていてくれていること。
キミの親となったこと、
それこそが大きな大きなクリスマスプレゼントなんだ。

プレゼントを配り終えて家に帰ってきたサンタさんは
トナカイさんにきれいな藁をあげて、
おいしい紅茶を入れて、お風呂に入り、
お髭の手入れをして、「さっぱりしたくつした」をはき、
「いっぱいのビール」と「ごうせいなごちそう」を楽しみ、
寝る前のココアを入れて、お気に入りのパジャマに着替え、
愛犬と猫に「クリスマスおめでとう」を言い、
清潔なベッドにもぐりこみ、
「ま、おまえさんもたのしいクリスマスを
むかえるこったね」とつぶやいてお話は終わります。

サンタさんにはクリスマスを一緒に祝う人は誰もいないけど
絵本に描かれている聖夜の過ごし方はとても心豊か。
「ねえ、読んで読んで~」と絵本を持ってきた小さな息子は
もうとっくにデカくなって、家も離れて、
読みきかせをすることもなくなったけど、
久しぶりにページを開いた「さむがりやのサンタ」は
幸せってさ、こういうことなんじゃないかね~と
教えてくれているような、
ちょっと素敵なシニアライフの指南本にも読めてきました。

遠くの大学に通う息子は

あの頃みたいにサンタさんへのお手紙なんて、
もう絶対書かないだろうけど、
「さっぱりしたくつした」くらい
クリスマス・プレゼントに送ってあげようか。
キミからもらった大きな大きな贈り物の
せめてものお返しに。

くつしたじゃ、しょぼい?

(写真は)
沖縄の子供たちの昔ながらのおもちゃ。
「琉球張り子」の現代版。
那覇の「沖縄ロードワークス」にて。
ゆるくて、トボケていて、
それでいて漫画にならない。
絶妙なバランスが魅力的なアート。
さむがりやのサンタさんに
プレゼントしたくなるな~。