骨太のたましい

大きな被害をもたらした台風18号は遠ざかりましたが、

日本のはるか南の海では次の台風19号が発生、

どうやら同じコースをたどる可能性もあるということで

来週にかけても気象情報から目が離せない秋本番です。

北海道の海も昨今の海水温の上昇が影響しているのか、

この秋はお魚事情に変化が感じられます。

ご近所のスーパーには道南の戸井町産の立派なブリが堂々と。

これがまた脂がのって実に旨い、が、北海道でブリって・・・。

知人のお父さんは道北の海の秋鮭釣り名人。

この時期は毎朝、夜明け前から海岸で竿を仕掛けるのですが、

例年なら解禁から既に100本単位で釣れる時期なのに、20本程度、

ボウズの日も多いと嘆いていたそうです。

どうやら鮭が岸に寄ってくるルートが変わったようなのですが、

立派なサケ釣りの竿で代わりに釣れちゃうのが、ちっちゃなフグ。

フグ!?・・・って暖かい海の魚でしょ?

ぽにょぽにょのお腹がサケ釣りの針に引っ掛かってあがってくるらしい。

秋の北の海のちいさな珍客。

海に何が起こっているんだろうか。

北海道からはるか南の沖縄の海。

昔から旧暦6月の大潮の日になると、浜に小さな魚の大群が押し寄せます。

「スク」、アイゴの稚魚の群れです。

サンゴ礁の中に入り込んだスクを網で文字通り一網打尽、

暑い沖縄では大量に獲れたスクを塩漬けにしてして保存食としました。

那覇の市場などでよく見かけますね、

ちっちゃな小魚がびっしり整然と詰まったガラス瓶、「スクガラス」、

人知を超えた海の恵みを上手に頂いてきた沖縄の人々の知恵であります。

初秋の沖縄旅4日目、南部の海へドライブしましたが、

帰りに寄った海人のまち糸満でも昔からこのスクガラスが作られていて

おかずにしたり、お年寄りのお茶うけにもしてきたといいます。

糸満の「お魚センター」で見た新鮮な旬の魚「いまいゆ」に刺激され、

那覇に戻り、その日の夕ごはんはお魚自慢の居酒屋さんへ繰り出したのですが、

そこで出されたのが「スクガラス豆腐」。

四角く生真面目に切った島豆腐の上に1匹ずつスクガラスを乗せた一皿。

白いお豆腐の布団の上に同じ方向を向いてじっと身を横たえるスクたち。

初めて見た時はそのシュールなインパクトにちょっとびっくりしましたが、

今はもう見慣れた懐かしさすら感じる風景。

これぞ沖縄の食の知恵であります。

小さなスクの可愛い目と目を合わせないように、えいやっと口にパクリ。

ふわ~っと濃厚な海の香りと潮の味が口の中に広がり

それがまろやかな島豆腐にやさしく抱かれて、混然一体、実にいい塩梅。

豆腐はグルタミン酸の旨み、スクガラスはイノシン酸の旨みという

海と陸の旨みの最高の組み合わせ、旨みのハーモニーが素晴らしい。

昔の人の舌の感覚って凄いな~。

感嘆しながらスクガラス豆腐をしみじみ味わう。

ほんのかすかにコチコチ歯にあたる骨の感触がまた乙であります。

スク。3cmほどの小さな魚体なのに、その結構な骨太がいとおしい。

一網打尽されて、塩漬けにされて、豆腐の上に載せられても

一匹一匹、その存在を食べる人間にわからせる骨太のたましいに、

何だか、少し感動しました。

琉球王朝時代には中国へ輸出する重要な海産物のひとつで、

琉球にやってきた中国官吏の記録、冊封使録にも塩辛類が載っていますし、

首里城でのおもてなしの宴にも登場していたかもしれません。

小さいけれど旨みが濃くて、小さいけれどコチコチと骨太なスク。

華やかな歴史の表舞台には記録されない、スクが見た歴史、

聞いてみたいものです。

発酵学、醸造学の大家で食文化に詳しい小泉武夫教授は

骨が気になるなら、すり鉢でペースト状にする食べ方を助言しています。

アンチョビペーストならぬ、スクガラスペーストですね。

なるほどなるほど、薄いトーストに塗ったり、パスタに加えても美味しそう。

初夏の大潮の日、雲霞のごとく浜に押し寄せる小さな魚たち。

その海の恵みを上手に食べ続けてきた沖縄の知恵。

味わい方は無限に広がりそうです。

市場に並んだ瓶詰めのスクガラスは

なぜだか、みんな瓶の内側で頭を下側に向けて

丁寧に一匹ずつ並べて入られています。

愛すべきテーゲー精神とは真逆の姿に、ゆるやかだけじゃない、

沖縄スピリットの豊かな多面性を感じました。

にしても・・・ビールが進む。

すみませ~ん、オリオン生、おかわりお願いしま~す!

(写真は)

左向け左!のスクガラス軍団。

妙にいとおしい。

骨太のコチコチに、小さな命の大きさを感じる。

命をいただいてるんだな。

ぬちぐすい「命薬」を実感する食感だった。