赤瓦と黒麹

ちいさな秋をさがす沖縄旅。

本島北部、名護のシンボル「ひんぷんガジュマル」に別れを告げ、

迷いながらたどりついた細い筋道「スージグワー」に

威風堂々とした赤瓦の建物が待っていてくれました。

沖縄で唯一戦前の姿を今に残す泡盛工場「津嘉山酒造所」。

現存する赤瓦の木造建築物としては最大級のこの建物で

昭和3年から泡盛「国華」が造り続けられてきました。

しかし、立派な赤瓦の建物は工事の足場が組まれ、

鉄パイプや資材だらけ、見学は無理かと思われるなか、

快く迎え入れて下さったのが笑顔が素敵な津嘉山酒造所の秋山さんでした。

「最初に応対したのがここの工場長、で、僕ともう一人の職人と

ほぼ3人だけで泡盛を造り続けています。

沖縄の男性はシャイなので、千葉出身の僕が広報担当っていうか(笑)」。

なるほどなるほど、シャイなうちなんちゅうの工場長さんから

この突然の見学者がスルーパスされたわけですね。

お仕事中ごめんなさい、よろしくお願いします。

そのまま番組レポーターにスカウトしたいくらい弁舌軽やかな秋山さんの案内で

1時間超の津嘉山酒造所探検が始まりました。

「まず、工事中で驚かれたでしょう。

実はこの建物は平成21年に国の重要文化財に指定され、

3年前から大改修が行われている真っ最中なんです。

麹屋、工場、母屋、その木材一枚一枚を全て記録して、解体して、躯体修理をして

また組み直すという大工事の途中で、もう少しでこの赤瓦も解体されるところ。

だから、現存する昔のままの姿を見られるのは、本当に今だけ。貴重な瞬間です。

その時に来られたというのは、本当にラッキーだと思います」。

そうか、そうだったんだ。

どきどきしながらも工事現場の中に踏みこんできて良かった。

薄暗い泡盛工場の内部を見渡すと、なるほど、

その柱一本一本、壁板一枚一枚に場所や番号が細かに記されています。

「板や柱が全体に黒っぽいでしょ。これが泡盛の命。黒麹です」。

壁板一枚まで記録保存されるのは建築物としての重要性だけではなく、

泡盛を造る生命が棲みついているからなのですね。

この赤瓦の建物は呼吸している。

解体、改修されようとしている今も、本当に生きているのです。

蒸留したお酒を冷やす赤煉瓦のプール、大きな甕を置いた痕が残る地面。

新しい工場にお酒作りをバトンタッチした古い工場はしんと静まり返り、

深呼吸をすると、泡盛の豊かな芳香がいまだ鼻腔をくすぐります。

昭和のはじめから戦火をくぐりぬけ、命をつないできた黒麹菌たちの

ひそやかなお喋りが聞えたような気がしました。

平成の大引っ越しの前に、そこにいるままの君たちに会えて良かった。

秋山さんが続ける。

「さっきの工場長がね、この工事現場を見たら、大抵の人は見学をあきらめる。

でも、それを乗り越えて、中へ入ってくる人は本当に興味があって、

呼ばれてくるんだから、一生懸命説明してあげろって言うんですよ」。

沖縄を旅していると、「ああ、あんたも呼ばれてきたね~」とよく言われます。

スピリチュアル系にはまったく疎い私ですが、

何というか、本人も無自覚な魂レベルのご縁と言いますか、

不思議な力でここにやってきちゃった・・・みたいなことが沖縄ではよくある。

今回も何に呼ばれてきたのかわかりませんが、

こうして戦前から息づく赤瓦の建物と今しかできない出会いをさせてもらえて、

ふ~む、やっぱり「ひんぷんガジュマル」がナビゲートしてくれたのかな~。

「じゃ、上から見てみましょうか」。

秋山さんに続いて、外の足場の階段を慎重に昇っていく。

「こちらが新しく改修した工場の赤瓦、

で、こっちが今いた古い赤瓦の屋根です」。

ほ~~~。

明るいオレンジ色の瓦と真っ白な漆喰が目に眩しい新工場の屋根の隣には

ヴィンテージワインのような漆黒に近い赤瓦の屋根。

あちらこちらから草が生えていて、手前には大きな穴がぽっかり開いています。

「2年前の台風の爪痕です」。

沖縄の強烈な日差しと暑さ、猛烈な台風、気まぐれスコールから

繊細な黒麹たちを体を張って守りぬいてきた古い赤瓦の姿は

崇高ですらありました。

この赤瓦の老兵たちの姿を見られるのもあとわずか。

本当に幸運な出会いであります。

昭和20年4月。

太平洋戦争の終盤、名護湾からアメリカ軍が上陸。

名護の市街地のほとんどの建物は破壊されましたが、

この「津嘉山酒造所」だけは残りました。

あたりは焼け野原になってしまったのに、この酒造所だけはなぜ。

屋根から下りて、工場から続く母屋にその答えがありました

秋山さんが教えてくれた、

赤瓦が見つめてきたもうひとつの歴史のお話はまた明日。

赤瓦と黒麹。

どちらが欠けても名護の美味い酒は生まれなかった。

最高の、バデイ。

(写真は)

名護の銘酒「国華」を守ってきた老兵赤瓦と

トーク抜群の秋山さん。

そのままドキュメンタリーが作れそうなお話でした。

それにしても、ね?マジに工事中。

よく見学ができたものです。

ありがとうございます!

シャイな工場長さん&秋山さん。