緑の革命コーヒー

沖縄で小さな秋をさがす旅リポート、

読谷村「やちむんの里」から国道58号線を那覇方面へ戻り、浦添市へ、。

地元でも人気のお洒落スポット「港川カフェストリート」にやってきました。

かつてのアメリカ軍基地居住区だったエリアには

青い芝が美しいコンクリートとブロック作りの外人住宅が立ち並び、

それぞれがカフェや雑貨店など個性的にリメイクされ、街歩きには最高。

絶品タルトのお店「オハコルテ」で至福のお茶時間を過ごした後は

夕暮れの小さなストリートをそぞろ歩き。

およそ60戸の米軍ハウスが立ち並ぶ港川エリアはまさにリトルアメリカ。

どの家も築50年は経っていますが、きれいに修復されて、お手入れされて

使いこまれた扉や木製の窓枠などは当時のままに

アメリカンな古着のショップや

ハイセンスなセレクトショップなどにリノベーションされ、

それぞれのオーナーのこだわりや個性が味わえます。

こうした新しい住人たちによってこのエリアも活性化し、

古き良き集落のつながりを現代的に受け継ぐ

新たな「リトルアメリカ」コミュニティーが実現しているようです。

それぞれにアメリカの州の名前がつけられた小さなストリート、

その中の一本をのんびり歩いていたら、

どこからか芳ばしいコーヒーの香りが漂ってきます。

ん?ストリートの中ほどに建つ一軒の外人住宅の煙突からもくもくと煙が。

芳しい匂いの元はどうやら、あの煙突の家。

ここが港川エリア名物「沖縄セラードコーヒー」。

1986年創業の自家焙煎のコーヒー工場&販売店です。

煙は珈琲焙煎機の煙突がはきだす自家焙煎コーヒーの吐息でありました。

芳しい香りに誘われて、

ペパーミントグリーンの木の扉の向こうを伺っていると、

「ああ、どうぞどうぞ、中に入って下さい」。

裏庭からラフな格好の初老の男性が声をかけてくれました。

オーナーさんでしょうか。

「ありがとうございます」。ほっと安心して中に入ると、

う~ん・・・全身の細胞がコーヒー色に芳しく染まりそう・・・。

何て素敵な焙煎したてのコーヒーの香り。

大きな焙煎機がせっせせっせと琥珀色の宝石を焙煎し続けています。

その傍らには大きな大きなコーヒーの麻袋がどっさりと積まれ、

ベージュ色の生豆が香ばしく焙煎されるのを順番待ち。

白い壁の外人住宅、一歩入れば、そこはコーヒー工場でした。

「いらっしゃいませ。どの豆にしますか?」

奥のオフィスから30代くらいの男性が出てきてくれました。

「沖縄セラードコーヒー」は親子2代で焙煎作りを続けるお店。

先ほどの男性がお父さん、こちらがその息子さんの末吉親子でありました。

壁際の棚には焙煎したての新鮮なコーヒー豆が

可愛い熱帯の鳥が描かれたシールが貼られた大きなガラス瓶に入って

ずらりと並べられています。

そのシールに書かれた豆の特徴を記した説明書きが凄い。タダモノではない。

豆の原産国、農園名、生産者はもちろんのこと、

生産地エリアの気候条件や生産処理方式まで明記され、

「優しい甘みと綺麗でバランスのとれた味わい」などの見出しの次に

原稿用紙1枚分はある仔細な特長レポートが綴られています。

高級ワインショップのようなこだわりに

コーヒー豆への深く強い愛情を感じます。

「どれも美味しそうで迷ってしまって・・・え~っと、

深めの焙煎で酸味の強くないまろやかなものは好きなんですけど・・・」。

「そ~ですね~、この深煎りマンデリンなどはお好みかと思いますよ」。

「では、それと、このオリジナルのエスプレッソブレンドを下さい」。

夕陽を浴びた焙煎機が茜色に染まるコーヒー工場の片隅で

ダークローストの深煎りマンデリンを

丁寧に袋詰めしてくれる焙煎職人の末吉さんに気になる質問を。

「あの~、セラードってどういう意味ですか?」

「元々はポルトガル語で『未開の大地』とか『やせた土地』という意味で、

今では一大コーヒー産地になった場所なんです」。

ほ~、セラードには何やら物語が秘められているようだ。

セラード地帯とはブラジルのミナス・ジェラス州にある広大なエリアで

酸性の土壌が農業には適さない「未開の大地」でしたが、

1980年代から大規模な土壌改革が行われ、

日当たりが均一な高原の気候条件がコーヒー栽培に適したことから

今では一大コーヒー産地となったそうです。

何も育たない「やせた土地」だったセラードが

豊かなコーヒー産地となったことは「緑の革命」と世界から称賛されています。

そしてその「緑の革命」を支えたのが日本のODAでありました。

日本とブラジルの「あきらめない」スピリッツが

セラードコーヒーを生み出したのであります。

そのブラジルへかつて多くの移民がこの沖縄から海を渡っていきました。

港川の外人住宅の一軒に作られた「沖縄セラードコーヒー」。

この焙煎工場で芳ばしく焙煎されるコーヒー豆を育てているのは

何世代ものちの彼らの子孫である日系人たちかもしれません。

床の上にどっさりと積まれた麻袋に印刷されたポルトガル語が

ブラジルからの船旅でやってきたことを物語ります。

「緑の革命」コーヒーには、日本とブラジルと沖縄、

三つの土地が関わる味わい深いストーリーが隠されているのです。

きっと心に沁み入る味なんだろうな~。

一杯飲んでみたいところですが、

ここは焙煎工場であって週末だけ工場内にスタンドが出現、

週末限定のコーヒースタンドになるそうで、平日は残念・・・。

と思ったら、

「コーヒー豆お買い上げのお客さまにはアイスコーヒーお出ししてますから、

ちょっと待って下さいね」と末吉さんの嬉しい言葉。

深煎りマンデリンで淹れた香り高いアイスコーヒーを一杯しみじみと味わう。

コーヒーのおともは外人住宅の木枠の窓から差し込む茜色の夕陽。

沖縄は物語のあるコーヒーに出会える場所。

日本、ブラジル、沖縄。

琥珀色の三都物語に思いをはせながら、

そろそろ日も暮れる。

さあ、那覇へ帰ろう。

(写真は)

外人住宅の軒先に下がる

「沖縄セラードコーヒー」の愛らしいロゴマーク。

コーヒーカップの上にとまる鳥さんは

南米に生息する「オオハシ」。

毎日午後に焙煎されたコーヒー豆は

本島の北から南へ鮮度命で懸命に宅配されています。

スーパーの棚ではお目にかかれないレアなコーヒー。

夕暮れ時のコーヒー工場でいただいた一杯は

思索の味がした。