かつお節の旅

沖縄ラッシュ。

今朝の朝日新聞の一面トップの見出しにこんな文字が。

青い海、眩しい太陽が誘う夏リゾートのお話、ではなくて

雇用情勢の変化を伝える記事でした。

見出しの全容は「働き手争奪、沖縄ラッシュ」。

少子高齢化に景気回復が重なり、

4月の有効求人倍率は1.08倍とバブル崩壊後につけた最高に並び、

人出不足が全国に広がるなか、有効効求人倍率0.64倍の沖縄県に

各地の企業が人材を求めて押し寄せているのだそうです。

求人のなかでも目立つのは県内に60社以上あるコールセンターとか。

沖縄ラッシュの主役に時代性があるのね。

先日のサイエンスカフェで聞いたお話を思い出しました。

平成の沖縄ラッシュはコールセンター、

明治末期から大正にかけての沖縄ラッシュの主役はかつお節でした。

25日の日曜日に紀伊国屋書店札幌本店インナーガーデンで開かれた

第75回サイエンス・カフェ札幌のテーマは「かつお節と日本人」。

科学技術の専門家と市民の橋渡しをする人材育成を目的とした教育機関

北大のCoSTEPが主催する参加型のイベント、

コーヒー片手に誰でも気軽にサイエンスの話に参加できるオープンさが魅力で

しかも今回のテーマは大好きな「かつお節」。

駅前エリアでお買い物ついでに覗いてみました。

講師は「かつお節と日本人」「カツオとかつお節の同時代史」などの著者である

北大文学研究科教授の宮内泰助さん。

そうそう我が家の書棚にも「かつお節と日本人」ありましたな。

これは著者の生のお話が聞ける絶好の機会。

本物のかつお節を手にした宮内先生の美味しいトークのスタートです。

へ~、知らなんだ。

毎日お世話になっている伝統食品かつお節ですが、

トリビアなエピソードがたっくさんあるんですね~。

毎日味噌汁を作らない家庭が増えているというのに、

かつお節の消費量はこの50年で4倍に増えているのだそうです。

ちなみにお米の消費量は半減ですからちょっと不思議な現象。

その大きな要因は「花かつお」の台頭と鰹節の調味料化。

機械で削った花かつおを風味を損なわずに流通させるフレッシュパックが登場し、

いちいち家庭で削るめんどくささから解放されました。

同時に大量生産される花かつおをたっぷりつかった

麺つゆなどの調味料の需要が爆発的に増えたのです。

結果、かつお節そのものでだしをとる機会は減りましたが、

調味料という形でかつお節は食べられているというわけです。

伝統的食品の「食べられ方」の時代変化ですね。

江戸の後期に高級品として生産が始まったかつお節。

現在では静岡、鹿児島が生産地のツートップですが、

実は日本各地で作られていた時代があり、

明治41年には北海道の浦河で「日高節」が生産されていたそうです。

へ~、北海道でかつお節を作っていたことがあったんだ~。

日高昆布じゃなくて日高節ね~。

それほど商品価値が高く、作れば売れたということか。

しかし、冷涼な気候はかつお節生産には不利な要素が多く、

ほどなく道産かつお節は姿を消したそうです。

一方、地の利を存分に生かしてかつお節景気にわいたのが

大正期の沖縄でした。

鰹の漁場でもあった沖縄は

乾燥命のかつお節作りに欠かせない南国の日差しもたっぷり。

明治29年座間味で生産が始まり、大正期には一大生産地に。

沖縄の男たちはミクロネシアのトラック諸島まで進出して、

鰹を獲り、かつお節の加工に励んだそうです。

当時を知る古老の証言によれば、景気が良くて良くて

「ビールを飲むどころか、ビールで足を洗った」ほどとか。

かつお節がもたらした沖縄ラッシュは戦前の一時代であったようです。

しかし、太平洋戦争が勃発。

皮肉なことに鰹の漁場は太平洋戦争の激戦地と化したのでした。

鰹を獲っていた男たちや船はことごとく徴用され、

その多くがかつては大漁にわいた海に沈んだと言います。

戦後、生産地の再編が進み、

現在はかつお節の99%が静岡と鹿児島の2県で作られていて、

南国沖縄生まれのかつお節は今は昔の味となってしまいました。

江戸時代から戦後に至るまで

300年に渡るかつお節の旅をたどる宮内先生のお話は

北海道、静岡、鹿児島、沖縄、ミクロネシアと

スケールの大きなかつお節ネットワークをトレースする旅でもあり、

サイエンスカフェにいながらにして、

だしの利いたアカデミックトリップを楽しんだ気分に浸れました。

宮内先生は日本の伝統的食品であるかつお節をひもとくには

「殖産興業」「沖縄」「植民地」「移民」という

4つの意外なキーワードが欠かせないと語ります。

世界に誇る日本の和食文化を支えてきたかつお節は

ある時代においては国を支える戦略物資でもあったのですね。

滋味深いかつおだしの旨みがさらに奥深く感じられてきます。

ゴーヤーチャンプルーにアーサー汁。

大好きな沖縄料理には美味しいかつお節がたっぷりと使われます。

南国の気候に合わせたカビをつけない沖縄好みの立派な荒節は

「沖縄仕様」としてもっぱら鹿児島の枕崎あたりで作られています。

かの地を訪れるたびに市場のかつお節専門店で大袋を買ってきますが、

荒々しい外見に似合わず、繊細な風味を醸し出すそのひとつかみにも

300年の歴史があると思うと、

より大事に大事に使わねばと思います。

かつお節の旅は

ダイナミックで、

少し切なかった。

(写真は)

カビをつけない沖縄のかつお節。

山本鰹節店の品物は料理研究家も御用達。

優しいおかみさんが丁寧に削ってくれます。

たっぷりのかつお節に熱いお湯を注いで、

塩か味噌か醤油少々で味つけた「カチューユー」は

沖縄の伝統的インスタントシンプルスープ。

別名「ヤカン汁」。

沖縄近海の鰹は脂分が少ないのでアミノ酸たっぷりの

良質なかつお節ができるという。

かつお節のはるかな旅の果てにカチューユーを一杯。

ああ、沁みる。