夕焼け佃煮

ブルガリにもシャネルにも負けない香りがした。

五月の雨上がりの朝。

窓を開けたとたんに天然のグリーンノートに包まれる。

青葉の香りは世界一の香水。

いましか楽しめない期間限定のパフュームを胸一杯に吸い込んで

さあ、皐月の江戸散歩リポートも終盤です。

連休を利用してのショートトリップ、

夕方の飛行機の時間までの半日「谷根千」ぶらり散歩。

「谷中岡埜栄泉」の豆大福と「すし乃池」の「あなご寿司」をぶらさげて

最終コースへ歩みを進めていきましょう。

三崎坂「すし乃池」の大行列を後に「菊見せんべい総本店」へ。

ここも「歩き煎餅」買い求めるお客さんで大混雑ですが、

小さな菊形のあられと海苔巻あられを買い求め、

「よみせ通り」へと向かいます。

昔ながらの商店街も連休を楽しむ人々で大賑わい。

「谷中福丸饅頭」の蒸したて10円饅頭など

谷中買い食いグルメのお店にはお約束の長蛇の列。

人の流れに逆らわず身をゆだねるしか術のないぶらり散歩人、

気がつけば古株の商店街「よみせ通り」から

戦後の継承者「谷中ぎんざ」へ差し掛かっていました。

ここらあたりが人出マックス地点。

狭い商店街の通りは黒山の人だかり。

人人人の固まりがじりっじりっとわずかに前方に移動している。

夏祭りの夜店のように荷物も下げていられないほどの混雑、

リュックやスマホを頭上に掲げて通り過ぎる人もいるほど。

連休の谷中は凄いことになっていた。

びたっ。人の流れが急にせきとめられる。

どうした?

そうか、メンチカツか。

最上級A5級の端肉を使ったメンチカツが大人気の「肉のすずき」前でした。

肉汁じゅわ~っとあふれる揚げたてメンツカツを求めて三重四重の人垣が。

体をうす~くして何とかメンツカツ軍団を遠回りにやり過ごす。

ああ、ようやく見えてまいりました。

これぞ昭和の夕暮れ風景ナンバーワンの階段道。

「夕焼けだんだん」であります。

夕餉の買い物帰りのおばあちゃんや猫がお似合いののどかなスポットも

連休のまっただなか、テーマパークの人気アトラクション前状態。

人にぶつからないように用心して情緒あふれる階段を上り、振り返る。

夕焼けにはまだ早いけど、ほんの少し傾き始めた午後の陽ざしを受けて

昭和の香りあふれる人情商店街の活気が見える。

振り向けば昭和。振り向けば「三丁目の夕日」的懐かしい風景。

大混雑してても、やっぱりいいな。ここからの眺めは。

谷中に来たら「夕焼けだんだん」を上りきって「佃煮」を買う。

これが私のお約束。

大正時代から続く佃煮の老舗「中野屋」です。

映画「三丁目の夕日」に出てきそうな昔ながらの店構えは変わっていません。

木枠のガラス戸を開け放した店先には

大皿に盛られたあみ、葉唐辛子、はぜやちりめんなどの佃煮が

つやつやぴかぴか飴色に光っています。

佃煮が並んだガラスケースの下は懐かしいタイル貼り。

「おばちゃん、はぜ100グラムおくれ」。

近所の子供が今にもおつかいにやってきそうな昭和の佃煮屋さんが

昔ながらの商いを続けている。

これが谷中の底力。

どれにしようかな・・・ああ、もう迷っちゃう~全部美味しそう♪

銀座あたりのショコラトリーで高級チョコを選ぶよりも真剣に迷う私。

う~んっと・・・ここのがこの世で一番美味しいと思う「しらす」と、

やっぱり「あみ」もはずせない、黒光りした「椎茸昆布」はお茶漬けだな、

おおお、今しか出ていないレア物「小海老」が燦然と輝いているではないか。

以上厳選4種の佃煮を包んでもらい、トートバッグにしっかり納める。

「ああ、これをちびちびつまみながら、今すぐ冷た~いビールが飲みたい!」

気がつけば「すし乃池」の行列に負けて昼ごはん、まだだった。

この店先でほっかほかのご飯も出したら飛ぶように売れるだろうな~。

「しらす」に「あみ」に「椎茸昆布」に「小海老」。

大好物の谷中の佃煮の心地よい重みを肩に、

もういちど「夕焼けだんだん」のてっぺんから午後の谷中の風景を眺める。

お寺と長屋と猫と植木鉢と甘いもんとお煎餅と佃煮とメンチカツと。

路地と路地の間に人情がぎゅっと詰まった懐かしい町。

夕暮れ迫り、日が傾く頃にはそこかしこのお勝手から夕餉の匂いが漂うのだろう。

そろそろお家に帰る時間だ。

遠い家路を急がねばならない。

谷中を歩くと、なぜだか、最期には家が恋しくなる。

さ、いっぱい遊んだ。

早くお家に帰ろう。

郷愁誘う夕暮れの似合う町を後に荷物を取りに銀座方面へ向かう。

それにしても・・・おなかへった(笑)。

(写真は)

本当は内緒にしておきたい(笑)佃煮屋さん「中野屋」。

サンダル履きで通いたい昭和の店構えが泣かせる。

いつも静かな店先も連休でたくさんのお客さんが詰めかけ、

遠慮がちにそっと写真を撮ったので、

味のあるタイル張り写っていなかった。残念。

でも美味しそうな飴色でしょ。

大正、昭和、平成と夕焼けを煮詰めた色なのだ。

谷中の佃煮は懐かしい夕焼けの味がする。