うしろめたさの味

一人旅の悦楽を感じる時間。

それは午後4時のひとり飲みであります。

こどもの日があるのなら、おとなの日があっても良いでしょう。

たまの一人旅は大人だけに許された醍醐味。

葉桜と柳の浅緑が目に鮮やかな五月の東京。

結婚式出席の合間を縫って、短期集中のひとり散歩を楽しみました。

お昼に羽田に到着、ホテルにチェックインしたところ、

お部屋がかなりアップグレードされていて嬉しいサプライズ。

荷物を入れて、窓を開けると、日比谷公園や皇居のお堀が目の前、

首都東京が眼下に広がる絶景が出迎えてくれました。

天守閣を一人占めしたような、ちょっとした将軍気分。

葵の御紋を背中にしょって(笑)、いざ、皐月江戸散歩へ。

まずは久しぶりの浅草詣でと洒落こみます。

相変わらずガタピシ音が愛しい銀座線で浅草駅へ。

午後の日差しが眩しい地上に出ると、人人人の波!

そうでした、世の中は連休真っ只中でありました。

雷門にたどりつくのも大変な混みようでしたが、

その先の仲見世通りはまさに黒山の人だかり。

家族連れにカップル、修学旅行生に外国人観光客などなど、

さまざまなお国言葉に若者言葉、外国語が賑やかな喧騒を奏でる人波が

じりじり、じりじりとまるで生き物のように浅草寺に向かっていきます。

これほど混雑する浅草は初体験。

「だめだ、これはまずは糖分補給せねば」と黒山の大行列から一瞬、横道に逃れ、

必ず立ち寄る扇のお店「文扇堂」をちょいと覗いて、はす向かいの「梅園」へ。

初夏の陽気であろうと、

まずは「梅園」の粟ぜんざいで小腹を満たそうと思ったのですが、

お店の前はありえない大行列・・・。

浅草に来るたびに寄るのですが、これまた初体験の大混雑。

連休の威力に降参。

仕方なく仲見世の黒山行列に再び加わり、

気力を振り絞って「亀屋」の人形焼きを買い求め、浅草寺までたどりつく。

心をこめて家族全員の健康を願い、お参りをすませ、

境内を抜けて言問通りを渡ると、さっきの喧騒が嘘のような静けさ。

路地裏を自転車のおじいさんがのんびり通り過ぎ、

エプロン姿のおばちゃんが鉢植えに水をやる、

普段着の浅草に再会できました。

そんな下町の路地裏にひっそり店を構える甘味処(後日詳述・笑)で

「梅園」のリベンジを果たし、しばしひと休みします。

時計を見るとまもなく午後4時。

お待ちかね、一人旅悦楽のひとときへ、いざ出立。

目的地は通称「ホッピー通り」またの名を「煮込みストリート」。

東京昼酒の聖地とも呼ばれる(笑)場所です。

浅草ROXの裏手、伝法院の西に伸びるおよそ150m沿いの道に

20件余りの昼飲み大歓迎の居酒屋さんが軒を並べるパラダイス。

どの店も通り沿いに丸椅子とテーブルを並べ、

既に大勢の悦楽客(笑)が特大ジョッキ片手に盛り上がっています。

初夏の風が気持ちいい浅草的オープンカフェ。

さあ、目当てのお店は伝法院通りに入る五叉路角のあたりですが・・・

ん?店の名前は同じだが、やたらと新しい黄色い庇が下調べと違う。

何度か通り過ぎて確認しましたが、やはり、ここが「高橋」のはず。

「いらっしゃ~い、どうぞ~、席空いてますよ~」

優しそうなお店のおばちゃんの声を信じて、もちろん外のテラス?席へ。

奥のコの字型のカウンターに座って競馬や野球中継冷やかすのも良いのですが、

皐月の午後4時、ひとり飲みの悦楽は、屋外に限る。

(おばちゃん談、3月に庇を新しくしたばかりとか。間違いなくこの店だった。ほっ)

ほんのわずか傾きかけているものの、

まだまだ元気な日差しに照らされる通りに面した丸椅子に陣取り、

「え~っと、生ビールと、煮込み、下さい」。

いや~、何だか競馬帰りのおっちゃんになったような気分(笑)、

常連客のようなふりして、ひとり、にんまり、盛り上がる。

「はいっ、おまちどう~!」

いえいえ、全然待ってませんって。速やかに冷え冷えの特大ジョッキが目の前に。

時刻は午後4時過ぎ。日のまだ高い時間から、普段はみんな働いている時間から

元気な西日を浴びながら、ためらいなくジョッキを傾ける。

んぐんぐ、プハァ~!

うめぇ~。旨すぎる。

これぞ、悦楽の味。

昼間のビールがなぜ美味しいのか。

それは「後ろめたさ」という最高の媚薬が加わるから。

つかの間の一人旅。

誰に遠慮も気がねもなく、自分の気分だけでぶらり散歩を楽しみ、

陽の高いうちから浅草ホッピー通りで喉を潤す。

みんなが働く時間に悦楽のひとときを過ごす「後ろめたさ」。

これが午後4時のひとり飲みの旨さを

さらにヴァージョンアップするのであります。

普段はなかなかできない「後ろめたさ」を堂々と決行できる一人旅の醍醐味。

10代や20代ではわからなかったろうなぁ。

これも立派に(笑)人生五十を超えたからこそ味わえるのかもしれない。

年を重ねるって、やっぱり悪くないなぁ。

煮込みの味も最高。

口に含めば甘辛すきやき味に煮込まれた牛すじ肉と脂がほろりとほどける。

その甘露を冷え冷えのビールで流し込み、「あの~、ビールおかわり下さい」。

すると「ね?うまいでしょ、煮込み。色々食べたけど、ここのが最高」。

隣のテーブルで人待ち顔だったポロシャツ姿のおじさんが話しかけてきた。

聞けば、小田原からここの雰囲気が大好きで、年に何度もリピートしているとか。

そこへ「ごめんね~、お待たせ~」と奥さまらしい女性が

お土産でも買っていたのか、包み片手ににこやかに戻ってきました。

失礼を承知で包みを拝見すれば、

これも先ほど行列していた「浅草シルクプリン」の包み。

「ここのプリン、美味しいんですか?有名なんですか?」と尋ねると

「良かった~、ていうか、良かったら、召し上がりません?

隣席の方の分もと思って余計に買ってきてたんです~。一緒に食べましょ♪」

奥さまはお店の人の分まで仕入れてきていたようで、

相席も持ち込みプリンも何でもありの大人の解放区。

始めて訪れた店なのに、帰る頃には誰もが馴染み客気分になれる心地よさ。

誰かと話したければ、いつの間にか会話が生まれ、、

一人飲みたいなら、ほっといてくれる。

浅草ホッピー通り。

ここは午後4時のパラダイス。

たまのご褒美に

ふらりと訪れたいお店がまたできた。

少しばかり飛行機に乗らなきゃならないけど、

距離と心地よさは関係ない。

今度は夫と二人、ゆるりとここの丸椅子に腰を落ち着けたいものだ。

その時はお隣さんの分も何か差し入れを仕入れていこう。

ちょっと淋しがりの一人旅の女性が座っているかもしれない。

(写真は)

五月の太陽の下、

浅草昼飲みの聖地で至福の特大ジョッキを傾ける。

「高橋」は鯨料理も自慢の味らしい。

今度は鯨の尾羽毛に竜田揚げもいいなぁ。

アジフライにハムカツも食べたかった。

ホッピー通り、ひとり飲みもいいけど、

みんなでワイワイ食べ飲みも楽しいだろうなぁ。

学生時代の旧友とも来なくちゃ。

飛行機の定期券買って、通いたくなる(笑)。