おかけなさい

昨日3月11日の午後2時46分、

私は小さな木の椅子たちを囲みながら、黙とうを捧げました。

「生まれた君に」

「ちいさなおとなたちのために」

「いつでも一緒」

椅子にはそれぞれ名前がつけられています。

それは、かけがえのない命に贈られる祝福のメッセージ。

失われた余りにも多くの命への鎮魂と、

そのさなかに生を受けた命への感謝をこめて、祈りました。

あの日被災地で生まれた赤ちゃんに

手作りの椅子を贈った「君の椅子プロジェクト」。

その活動の経緯と椅子を受け取ったお父さんお母さんの手記をまとめた本

「3・11に生まれた君へ」の出版記念イベントが行われ、昼の部に参加しました。

プロジェクト代表の磯田憲一さんは

2006年から始まった歴代の小さな「君の椅子」を

いとおしそうに手に取りながら、

さまざまなエピソードを明かしてくれました。

旭川大学大学院の磯田ゼミ、学生との対話から生まれたこのプロジェクト。

「赤ちゃんが生まれたら、花火を上げる町(愛別町)がある」

「地域の潜在力を生かして、命の誕生を祝うことはできないか」

「時間の積み重ねが作り上げるコミュニティーの再生をめざそう」

磯田教授の熱いヒントに計画は動き出します。

コンセプトは「少しずつ、ゆっくりと」。

なぜ、小さな木の椅子だったのか。

それはあるレストランでの出来事。

一組の夫婦が三人前の料理を注文しました。

「三人前?本当の三人分でよろしいのですか?」と聞くウェイトレスに

夫婦は答えました。

「きょうは亡くなった私たちの子供の誕生日。一緒に祝いたいのです」

するとウェイトレスは、こう言ったそうです。

「それでは、椅子をお持ちしましょう」。

椅子は、居場所。

こうして

生まれた日と名前が刻まれ、

無垢の木材を使い、

旭川家具の職人が確かな技で作り、

毎年デザインが変わる、

世界でただひとつの「君の椅子」が生まれたのでした。

「出生届を出しに行った若い父親が

町から贈られた小さな木の椅子を小脇に役場を出てくると

椅子を見た人々から、自然におめでとう!の言葉がかけられる」

そんなコミュニティーを実現したい。

プロジェクトの熱は、デザイナーを職人を自治体を巻き込み、

今では東川町、剣淵町、愛別町、東神楽町が

町内で生まれるすべての子供に「君の椅子」をプレゼントしています。

会場に飾られた歴代の「君の椅子」たち。

2008年の「スタンプ」と名付けられた椅子は

子供が小さなうちは低い方の足を下にして、

大きくなるとひっくり返せば、椅子も一緒に背が高くなる仕組み。

2009年「いつでも一緒」はお母さんが座ると膝が上がり、

授乳にぴったりの高さになる構造。

ゼロ歳の赤ちゃんでもお母さんに抱っこされて一緒に座れる

優しさに溢れたデザインなのでした。

月日が経ち、

小さな椅子を追い越して

子供たちが大きく大きく成長しても

一生物のデザインと技とコンセプトで作られた椅子は

君と一緒に人生の時間を積み重ねていくのですね。

小さなお尻を受け止めて、

時にはお絵描きの机になり、

おやつのテーブルになり、

お気に入りのクマさんの居場所になり、

いつしか季節の花々が飾られたり、

お雛さまの台になったり、

そうこうしているうちに

親となった君の胸に抱かれた新しい命を

椅子はいつかまた受け止めていくのだ。

小さな傷や傷みさえ愛おしい歴史の置き場所。

ちょっと人生歩くのに疲れたら

さあ、おかけなさいな。

君の居場所は、ここにあるから。

「僕の椅子」が一脚あれば、

人は、生きられる。

少しずつ、ゆっくりと。

磯田さんの言葉が、胸に沁みた。

(写真は)

歴代の「君の椅子」が勢ぞろいした会場。

思わず優しく撫でたくなる。

大人が座ってもびくともしない頑丈さも魅力。

家族の一部になっていくんだな。

椅子のある風景は、温かい。