眠り姫細胞

「王子様にキスされて目覚めるお姫様」だから、

「プリンセス細胞のP細胞でどうかなと思ったのですが、没になりました」。

科学的な頭脳とロマンティックなハートをあわせもつ美しい開発者の言葉。

世界中が驚愕した新型の万能細胞「STAP細胞」の名前は、ことによっては

プリンセス細胞、眠り姫細胞になっていたのかもしれません。

ネーミングのセンスまで何百年に渡る生物学の常識がぶっ飛ぶほど素敵。

おぼちゃん、ハルコ、新しいミューズの誕生です。

薔薇色の頬にきれいにお手入れされた巻き髪、そして真珠のイヤリング。

その清楚なお姫様のようなヴィジュアルにも世間は驚きました。

理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが笑顔で語る言葉は

実にすんなり耳に溶け込んできます。

高度な科学知識に基づく研究結果を語るときには

えてして難解な専門用語が並びがちですが、

彼女の説明は「あのね、昨夜ね、彼がね」とカフェで女友達に語るお喋りのようで

聞きやすく、理解しやすく、真性文系の脳でもたやすく処理できます。

新型細胞の発見過程をプリンセス物語になぞらえるなど、

おじさん研究者には、決してできない芸当であります。

生命の種である受精卵は分裂を繰り返し、

皮膚や筋肉や神経などさまざまな組織に育ちますが、

いったん育った細胞は元の万能細胞に戻ることはないというのが「常識」。

でも、ハルコ姫はストレスがかかった細胞が万能状態に戻ることに気づく。

たとえば細胞を細いガラス管に通したとき、

たとえば「紅茶」程度の酸性の液体にひたしたとき、

つまり、少々荒っぽいキスをされたとき、眠り姫が目覚めるように

細胞が覚醒し、万能細胞となる。

酸性の液体を一杯の紅茶にたとえる感性。

細胞覚醒の過程を王子様のキスにたとえる感性。

薔薇ときらめくお星さまにふちどられた世紀の大発見。

科学の専門記者でなくてもその仕事が容易にイメージできる。

記者会見の場の和やかさが想像できます。

集中力、忍耐力、コミュニケーション力に加え、

小保方リーダーのプレゼン力もAランクであります。

再生医療などさまざま分野への応用が期待できるSTAP細胞をめぐって

世界中で研究開発競争がすでに始まっていますが、

この新型細胞には現代人の心も救う物語があります。

複雑な人間関係や社会構造がからまりあって、

どうにもならないストレスに耐えかねることもある。

そんなときは、ああでもない、こうでもないと堂々めぐりの思考を捨てて、

自分を初期化すればいい。

ややこしく、複雑に考えることをやめて、

自分の心を受精卵の状態にまで戻せばいいのだ。

そうだ、ストレスのキスを受けたら、生まれたままの素直な自分に戻ればいんだ。

飛びぬけたアスリートの思考回路にはひとつの特徴があるといいます。

凡人には想像もできない極度の緊張やストレスにさらされる彼らは

その原因を「自分でコントロールできるもの」と

「自分ではコントロールできないもの」の二つに分け、

後者には無駄なエネルギーは注がず、

その分も前者に全力で取り組むことで高いパフォーマンスを可能にするのです。

彼らは意識せずにストレスにさらされた自分を「初期化」する術を

すでに心得ているのでしょう。

凹んだら、「受精卵」に戻る。

そうすれば、進む道は、きっとシンプルに見えてくる。

STAP細胞は、画期的な心のサプリでもあるようです。

(写真は)

昨日、お伝えできなかった芭蕉布の実物。

那覇の地元市場の小さな呉服店で発見。

生産地でもなかなか見ることができない反物と

女性店主のおばあさんが実際に着ていた芭蕉布の着物。

その小さな着丈はまるで童女の着物のよう。

つつましく仕立てられた丸みを帯びた袖は実に働きやすそうです。

芭蕉畑で、裏庭で、台所で、

まめまめしく働く小柄な沖縄の女性たちの姿が目に浮かびます。

美術館や高級呉服店の奥座敷よりも

風がゆるやかに通り抜ける赤瓦の古民家の縁側がよく似合う。

暮らしのために織られた芭蕉布の本当の美に出会いました。