幸を織る
たとえば到来物のお菓子などを頂いた時、
中身と同じくらい楽しみなのが「栞」です。
お菓子が生まれた歴史や土地の物語が仔細に書かれた栞を
「ふむふむ」、「なるほどなるほど」と眺めながら頬張るのは至福の一時。
小さなお菓子に秘められた物語も一緒にいただくと
その味わいは何倍にも深まるものです。
一口でぱくっと食べてしまうのは、もったいない。
本日2月22日(土)のAIR-G’「野宮的コフレ」のテーマは「味わう心」。
五感をフル活動させて美しいもの、美味しいものを味わいたい。
和食の基本「おだし」に「国産デニム」、
そして上海で注目の「老布」の魅力についてのお話をしました。
「老布」とは綿紡績業で栄えた上海に残る古い綿布のこと。
母から娘へと女性たちが伝えてきた素朴で丈夫な「老布」が
ロハスの時代の空気感と相まって、専門ショップができるほど
ファッションや雑貨の世界で見直されているそうです。
ひと織り、ひと織り、一目一目に思いがこめられた故郷の布。
沖縄旅で出会った大宜味村喜如嘉の「芭蕉布」を以前にご紹介しましたが、
気の遠くなるような複雑な工程とともに感動するのが
味わい深い、その柄です。
上海の「老布」と同じようにさまざまな縞模様や格子柄があり、
どれも女たちが我が家の柄として大切に織り継いできたもの。
同じ縞模様でも幅や本数、配色が微妙に異なり、
芭蕉布の柄を見れば、どこの家かがわかる美しい屋号なのです。
特に旧暦7月の盂蘭盆に行われる7月エイサーでは
喜如嘉の女性たちは芭蕉布で織られた自慢のエイサー衣をまとって
優美な踊りを披露することで知られています。
沖縄各地で盛んなエイサーは若い男性による勇壮な踊りという印象がありますが、
喜如嘉のエイサーは少し味わいが違います。
地謡は三線はなく、歌と小太鼓だけ。
踊り手も歌い手も女性ばかりで70歳以上のおばぁも参加し、
新しい振りや歌は加えずに、昔のままの優美な振りで踊ります。
静かでゆったりした女たちによるエイサー。
その日、喜如嘉の女性たちが身につけるのが
母や祖母が作ってくれたものや、親きょうだいゆずりの「ウバギサン」。
「ウバギサン」とは芭蕉着のこと。
自然のままに染められた芭蕉布はトンボの羽根のように軽く涼しげで、
それぞれの素朴な意匠が踊りの動きとともに美しく躍動します。
今は目をつぶって想像するだけですが、
いつか実際に見てみたい、味わいたい光景です。
「竹の節」「花結」「グバン」「銭玉花結」「十字絣」「組番匠」・・・
喜如嘉のエイサー衣の模様は身近な自然のイメージを織りこんだもので
そのひとつひとつを慈しむような名前がつけられています。
祖霊を慰め、今を生きることへの感謝を表す芭蕉布の素朴な模様は
美しい「言葉」であります。
自然の恵みに感謝し、
今日一日の幸せを織りこむ。
そんな小さな芭蕉布のコースターでお茶時間を過ごす。
それだけで、幸せな土曜日だ。
(写真は)
反物ではお目にかかる機会は滅多にない希少品の芭蕉布。
「せめてもの思い出に」と芭蕉布記念館で買った小さなコースター。
オーガニックな縞模様の配色が今日的。
シンプルなサマードレスに仕立てたらどんなに素敵なことでしょう。
そんなお洒落な妄想に浸る。

