大きい人
「ゴミ出しのルールやマナーを守らない」
「孫を自分のおっぱいであやそうとする姑!?」
「賞味期限切れの食べ物をお土産に持ってくる」
昨日のUHB「さあ!トークだよ」のテーマは
「私のまわりの困った大人たち」でありました。
大人だから困る。大人だから注意しにくい。
大人なんだから、自分で気づいてほしいのですが、これが難しい。
困った大人の一方で
本当の大人ってこういう人なんだとしみじみ感じた人物がいました。
「いねむり先生」です。
先日放送された、伊集院静の自伝的小説を同じタイトルでドラマ化した作品。
妻、夏目雅子を失い、絶望とどん底の淵にあった彼を救い出したのが
先生こと、作家色川武大(阿佐田哲也)でありました。
主人公を藤原竜也、先生を西田敏行が演じていたのですが、
たぬきのようなお腹、ペンギンみたいな歩き方、邪心のない笑顔の陰の孤独、
まるで作家本人が乗り移ったかのようでした。
突然、眠気に襲われてしまうナルコレプシーという病を抱える先生。
だから「いねむり先生」。
自分で自分をコントロールできない苦しみを誰よりも知る先生は
幻覚にさいなまれる主人公を
説教するでもなく、励ますでもなく、突き放すこともなく、
ただ、にこにこと、共に麻雀卓を囲み、競輪の旅に出る。
ただ、にこにこと、二人で真剣にあほな旅打ちに明け暮れる。
ただのたぬき腹のいねむりばかりしているおっさんにしか見えない先生が
いつしか「天使」に見えてくるのです。
誰よりも苦しみを知る先生は、誰よりも大きな魂を持っていました。
印象的なエピソードがあります。
旅打ちの途中で寄った名古屋の小さな古い食堂。
ちょっと化粧の濃いおかみがまだ高校生の頃、
同じようにふらりと店にやってきて味噌カツ定食を頼んだ先生に
「お客さん、東京の人?銀座のホステスって、
いっぱいお金稼げるってホントですか?」とこっそり聞くと、
先生は「あんただったら(耳元でこそこそと)・・・くらいは・・・」と囁き、
そして、お勘定の時、1万円札からのお釣りを全部彼女の手に握らせて
「これは、東京からここまでの電車賃。
うまくいっても、いかなくても、帰ってきなさいよ、
必ず、ここに帰ってきなさい」
そう、小さく伝えるのでした。
カメラが追った目線の先には、一人で切り盛りする祖母の小さな姿。
これほど大きな愛情の詰まった餞別があるでしょうか。
小さな古い食堂では収まりきれない若い女性の野望と欲望を御することなく、
しかし、帰るべき場所だけは間違わないよう渡す「片道切符」。
行きは良い良いと無責任に送り出す片道切符とは違う。
好きに生きたらいい。
でも、帰り道だけは、見失さんなよ。
大きな人だ。
こういう餞別をそっと手に握らせることができる人を、大人と言うんだ。
麻雀も博打も酒の味もさっぱりわからないけど、
いねむり先生の大きさは、よくわかる。
駅弁広げながら旅の道ずれ、ご一緒してみたかった。
片道切符だけは失くさないように、生きていこうと思いました。
いねむり先生。
(写真は)
秋の夜明け。
すっかり季節のバトンタッチが終わった。
台風が通り過ぎ、
空も海も川もかき回されて、秋が残った。
桂川の機嫌は直っただろうか。
渡月橋のにぎわいが早く戻りますように。

