名残の行列

しっとりと静かな空気の向こうから

かすかに秋の虫の声が聞える9月最初の月曜日の朝です。

北海道の小中学校ははとっくに2学期が始まっていますが、

本州以南ではきょうが始業式というところが多いのでしょう。

昨日の新千歳空港の手荷物カウンターには

北海道を後にする観光客の長い長い行列ができていました。

それはきっと夏の名残りの行列。

長い夏休みをぎりぎりまで楽しんだ最後に待ち受けていたものは

お盆の時期に負けないくらいの長い長い人の列。

大きなキャリーバッグの上に更に大きなお土産の紙袋を積みあげ、

はるか遠くの手荷物カウンターまで、

家族連れや若者たちがじっと順番を待っていました。

この忍耐強さは世界に誇れる日本の美点かもしれません。

孫を見送りに来たらしいおばあちゃんがそんな姿を見て、おもわず一言。

「まあまあ、大変、まるで闇屋さんか担ぎ屋さんだね~」

「へ?ヤミヤ?カツギヤ?ってか、何それ?」

大学生らしき青年はぽか~ん。

「あら、いやだ、そうだよね~、闇屋さん担ぎ屋さんって言ったって

若い人にはわかんないよね~」と笑いながら、

おばあちゃんは説明を始めます。

「戦後のね、物のない時代にね・・・」

「あ~つまり、無認可の商売ってこと?」

「まあ、そうだわね~」

夏が過ぎて、季節がいくつもめぐって、

いつしか戦争の記憶も「風化」という言葉が

冠のようにつきそうようになっています。

でも決して大きな声で叫ばなくても、歴史の証言集に収録されなくても

語り継がれる暮らしの記憶というものがあるのだと

おばあちゃんと青年の会話から教えられました。

砂糖や小麦粉や赤ちゃんのミルクさえ自由に手に入らずに

人々が大きなリュックを背負って右往左往していた時代。

きょうの糧を手に入れるために

人々が長い長い行列を作っていた時代は、実はそんなに遠くないんだ。

少なくとも、目の前で笑っているおばあちゃんが体感した出来事なんだ。

今はたいていの行列の向こうには

美味しいスイーツとかラーメンとか期間限定のレア物とか入手困難チケットとか、

「幸せ」が待っています。

でも、そんなに遠くない昔に

「配給」などぎりぎり命をつなぐ食糧のために行列を作った時代もあったのだと、

夏休み最後の週末、

新千歳空港の雑踏のなかで、ふと思いました。

北海道の夏の思い出を大きなキャリーバッグと紙袋に詰めて、

あの行列の人々も無事に家路に着き、

さあ、きょうから9月最初の新しい1週間が始まります。

夏の名残りの行列もなくなって、

さあ、いつもの毎日が始まります。

☆本日9月2日(月)の「さあ!トークだよ」のテーマは

「8月はゲリラ豪雨、9月は台風で倍返し!?」

北海道らしからぬ大雨、雷雨に襲われた今年の8月、

でも9月も油断大敵らしいです。

激しすぎる気候変動のわけは?

お天気の専門家、気象予報士菅井さんに色々聞いちゃいます。

ぜひ、ご覧くださいね。

(写真は)

1953年からガープ川のたもとで発展した沖縄那覇の農連市場。

スーパーもコンビニもない時代、

農家の家計と那覇の飲食店や家庭の食糧を支えていた。

かつてほどの活気はないものの

おばぁたちによる温かい相対売りの魅力は変わらない。

戦後の復興期からそのままの時間が止まっているかのような

日常がここには息づいている。