山の向こうにあるもの
人はなぜ山に登るのか。
「そこに山があるから」らしいが、
そこに山にあっても、なかなか登る気にならない私は
いまひとつ納得できないでいたが、
この答えに胸のつかえがす~っと消えた。
人はなぜ山に登るのか。
「人間が持っている移動本能でしょう」。
今朝の北海道新聞朝刊のインタビュー記事、
史上最高齢80歳7ヵ月でエベレスト3度目の登頂を果たした三浦雄一郎さんは
最後の質問にこう答えていました。
「山や海の向こうに何があるのか好奇心を持たなければ、
人間がアフリカかどこかで誕生し、その中だけで暮らしていたら、
災害や病気で滅びています。
山を登るのは人間が持つ遺伝子であり、偉大な本能です」。
肉体と心を駆使して得たその答えに圧倒されました。
大きく大きく、納得です。
山の向こうに、
海の向こうに、
何があるのか。
自分の目で耳で足で手で肌で心で確かめたい。
確かめずにはいられない、人間の移動本能。
この本能がなければ、
人類はアフリカ大陸からグレートジャーニーの旅に出ることはなく、
ひとつの大陸に封じこめられて途絶えていたかもしれない。
アレクサンダー大王が東征することもなく、
コロンブスが新大陸を発見することもなく、
この青い星の主役は、われわれ人間ではなかったかもしれない。
危険と背中合わせ、
時に誰かを心配させ、悲しませても、止められない人間の移動本能。
好奇心という名の「虫」にそそのかされる困った本能こそが、
人類の歴史と発展をつないできたのか。
山男に惚れてはいけない理由は太古の昔からそうだったんだ。
本能だもんね。
わたしのこと愛していても
人類誕生以来からの本能には、愛も、時には、かなわないということか。
そこに山があっても、眺めるだけで満足の
移動本能が甚だしく退化傾向の私ですが、
その昔、北海道の屋根、大雪山系縦走に挑戦したことがあります。
テレビのロケ。
仕事というミッションによって、
眠ったままの移動本能がたたき起こされました(笑)
三浦雄一郎さんがインタビューで指摘されていたように、
私たち撮影チームの登山も、
「プロとして、十分な備えで事故なく帰るのが至上命令」でありました。
超一流のプロの登山家チームにサポートされ、
憧れの山「トムラウシ」を目指す行程は
予備日を十分に設定したスケジュールが組まれていました。
北海道の2000m級の山は本州の3000m級のそれを超える過酷な環境。
しかし、それだけに
可憐な高山植物、天空の日本庭園のような絶景を目の当たりにし、
ナキウサギにも逢えたし、
ヒグマの痕跡も目撃しました。
登山口を出発した時は30度近い真夏の気温だったのに、
5泊6日ほどの縦走を続け、
最後の草木一本生えていないトムラウシの頂上アタックのときには
何と、初雪が降りました。
山の激しい気性を実感。
お気軽な夏山気分では命取りの2141mの世界。
それもこれも綿密な計画と十分な装備があればこそ
実感を許された世界でありました。
山の向こうにあったものは
人間はかくも弱く、
だからこそ、
かくも強い意志を持てる存在なんだという実感。
しかし、移動本能が退化傾向の私、
降りてきてからは魔法がとけたようにただの人(笑)
山は・・・眺めるのが、一番であります。
山マダムにはなれそうもありません。
(写真は)
この間のロシア料理の会のメイン。
夏のボルシチ。野菜とお肉がたっぷり、そのままエネルギーになる。
大雪縦走、山のごはんは三ツ星の美味しさだった。
塊のベーコンがごろごろ入ったクリームシチュー。
明け方の出発に備えて
ふりかけご飯をビニール袋ごしに握った、通称「ビニめし」(笑)。
どんな星つきレストランでも出せない天空の味だった。

