2016/08/04
小さな厨房のオーブンから漂う
お菓子が焼ける甘い匂い。
それは台湾と石垣を結ぶおやつ。
オンライの島ちょっき。
甘酸っぱさが心に沁みる。
夏の沖縄旅2016リポート、旅の前半は石垣島ステイ。
西表島・由布島・小浜島・竹富島の八重山4島クルーズや
メインアイランド石垣島の一周ドライブなどで
八重山諸島の豊かな自然、文化、食、人々に出会い、
感動の連続のうちに、あっという間に石垣滞在最終日。
夕方の飛行機で本島へ移動、レンタカーの返却時間も迫る中、
最後の最後、寸暇を惜しんで沖縄県産本のメッカ、
日本最南端の誇り高い本屋さん「山田書店」にやってきました。
沖縄好き&本好きの旅人にとって、まさに楽園。
限られた時間の中、そんなパラダイス書店で出会った一冊が
「石垣で台湾を歩く」(沖縄タイムス社刊)。
島特産のパイナップルもおなじみの水牛も実は台湾がルーツ。
島の人にも意外に知られていない石垣と台湾のつながりを
様々な角度からわかりやすくひもといた「もうひとつの沖縄ガイド本」。
サブタイトル通り優れた「八重山発の地域教材」ですが、
その中のコラム記事に「ちょっき屋」の名前を発見。
そう、午前中に訪れた市場の2階の小さなお菓子屋さんであります。
巨大月餅風の焼き菓子「丸ちょっき」を買いましたよ~。
タイトルは「”台湾プラス石垣”のお菓子」。
「ちょっき」とは八重山方言で「おやつ」を意味する言葉、
ご夫婦が市場2階の小さなキッチンで丁寧にお菓子を作っています。
ご主人の芳沢和則さんのご両親は台湾出身、奥さんは台湾の彰化出身で
お祖父さんが石垣島に住んでいたことが縁で和則さんと知り合い、
結婚後、石垣島で農業をしていましたが、
2002年一念発起して「ちょっき屋」を始めました。
お店の看板商品は「丸ちょっき」「フルーツちょっき」。
実は台湾で土産菓子として有名なパインケーキ、
「鳳梨醂」(フォンリースウ)が元になっているのだそうです。
元々このお菓子が大好きだった和則さんが台湾に行った時、
奥さまの友達の案内で鳳梨醂を作る工程を見学したことがきっかけで、
帰国後、早速小さなオーブンを買って試作を開始、独学で工夫を重ね、
島特産のパイナップルやサトウキビのシロップなど材料を厳選、
地元のお客さんにも観光のお客さんにも
大評判のお菓子が完成したのでした。
午前中に大きな「丸ちょっき」を買った折、
どこか中華菓子の面影を感じて「月餅に似てますねぇ~」と
パートらしきお店のお姉さんに何気に振って(笑)みたところ、
「そうですね~」と軽くスルーされましたが、やっぱり~、勘は当たっていた。
「ちょっき屋さん」は台湾と深いつながりがあったのですねぇ~。
台湾2世のご主人と台湾出身の奥さまが台湾のパインケーキ「鳳梨醂」に
インスパイアされて市場の2階でコツコツ焼き上げるお菓子。
まさに「台湾プラス石垣のちょっき」であります。
また「ちょっき屋」のお菓子は鳳梨醂が元になっていますが、
そのまま台湾から持ってきたものではなく、ご主人が作り方を研究し、
島特産の材料を活かし、沖縄をイメージさせる包装や
地元石垣島の言葉を店名や商品名に使うなど、
台湾と石垣、それぞれの要素をうまく組み合わせたもの。
それは戦前パイナップル栽培のため島に移住してきた台湾系住民が
苦労の末、サトウキビと並ぶ二大産業に育て上げた汗と涙の歴史とともに
故郷の祭りや儀式、習俗、料理など台湾とのつながりを大切にしながら、
八重山に根ざしてきた歴史そのものを現すお菓子とも言えます。
巨大月餅風の「丸ちょっき」や
フィナンシエ風の「フルーツちょっき」の中には
甘酸っぱい石垣島特産のパイナップル餡がはさまれています。
パイナップルのことを台湾では「オンライ」と言うそうです。
福が来て縁起が良く子孫が栄える「旺來(オンライ)」と発音が同じなので
パイナップルは贈り物に最適な幸せを呼ぶ果物なんだとか。
戦前に渡ってきた「オンライ」が結ぶ台湾と石垣島の美味しいご縁。
オンライ・・・恩来・・・とも書けるよね。
台湾と石垣島、236kmしか離れていないお隣同士の島が
甘いパイナップル「オンライ」を通じて育んできた歴史に思いを馳せ、
丁寧に真面目に焼かれた「ちょっき屋」さんのお菓子を頬張る。
甘酸っぱさの向こうに台湾のオンライ畑と島のパイン畑が
重なって見えてきたような気がした。
オンライのちょっき。
忘れられない島のおやつ。
(写真は)
台湾にルーツがあった「丸ちょっき」。
パッケージの絵は著名な沖縄の版画家、名嘉睦稔さんのもの。
その作品が大好きだったご主人が直談判して
使用の許諾を得たそうです。
「ちょっき」と書かれた力強い筆文字も名嘉睦稔さん。
台湾と沖縄への愛が溢れる焼き菓子です。